手入れ方法は『キス』。 II

［52］ ページ2

右手から人の熱が伝わる。
大きな手が私の手を包み込んで温かい。

私は今さっき、刀剣男士の一人、三日月宗近を手入れした。
もちろん『キス』で。
やはりキスの経験が浅い私にはこの手入れ方法は少し難だ。
彼の手を引き、私たちは私の住む本丸に転送した。



「着きましたよ、ここが私と貴方たちの本丸です」
「おぉこれはこれは。随分と古風があっていい本丸だなぁ」
「正直にボロいと言ってもいいんですよ」



この本丸は元々私の本丸ではなかった。
昔、この本丸は私では無い審神者が務めていた。
だが、その審神者は刀剣男士たちをモノ扱いにしたり
最低なことに暴力や欲求不満を晴らすために色々と強制的にしていたそうだ。
うぅ寒気が。




「でも、俺はこの本丸好きだぞ。前と比べて息がしやすい。主のお陰だな」
「嬉しいことを仰ってくれるね。なんかまたこの本丸を好きになった」




別に前任のせいでこの本丸を嫌いになったりはしていない。
だって今この本丸は、私たちの本丸だ。
これからみんなの理想が詰まった最高の場を作れると思うと、わくわくする。

しかもこの本丸で私は成長したことがたくさんある。
清光と薬研、長谷部、鶴丸、青江。
そして三日月と出会った。
最初は苦難もあったが何とかこなしてきた。
たった数ヶ月で人は変わっていくのだな。



「えっと、まず静かに離れに行きましょう」
「して、何で離れなのだ？ 別にこの本丸の中に入ればよかろう」
「そ、それがですねぇ。ここの本丸は人間不信の刀剣男士たちがまだ沢山いて、いつ私が襲われるのか分からないんです。だから、政府の人たちが安全な寝床を作ってくれたの」
「あぁ、成る程な。では行くぞ」




繋がれたままの手を引っ張られる。
強引にだけど優しくて私を前に前へと歩ませる。
トコトコ。と歩く私たち。

枯れた木。腐った塀。ボロボロな屋根。
散らかった畑。干からびた草花。
その道を抜くと、私がいつも住んでいる離れが見えてきた。
そこにはいつものメンツが集まって楽しそうに駄弁っていた。




「あ、主ぃおかえりなさい！ 」
「オオ、今日は早い帰還だな君。見てくれっこの泥だんご‼」
「鶴丸さんドロドロだね。ふふっ泥がだよ」




賑やかだ。
朝っぱらから元気でなによりだよ。うんうん。




「若い者は元気があっていいなぁ。俺はあそこに入っても平気だろうか」
「ハハ……心臓を強くしておくといいかもです」

［53］→←［51］Prologue。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す