【d!】翡翠葛【短編集】 (ページ4)

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【群青】桔梗※ ページ4

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夜空が映し出されて一層綺麗になった海を眺める1組の男女。2人は仲良く恋人繋ぎをしており、その表情は幸せそうに微笑んでいた。

夏の暖かな風が2人の間を通り、女性の髪と青いワンピースがふんわりと揺れる。

「Aちゃん、本当にええの???」

心配げな表情をして訊く男性に、Aちゃんと呼ばれた女性は優しく微笑む。

『鬱さん以外の人と結婚するくらいなら、私は鬱さんと共に死にますわ』

優しげな瞳の底に強い意志を抱きながらAは力強か答えた。その返答に鬱さんと呼ばれた男性は心底嬉しそうに微笑み、Aの頭を優しく手で梳く。

Aが華族に対して、鬱は平民。2人は互いに互いの事を想っているのに、その恋は身分の差で叶わない。それに近々、Aは同じ華族の男性と結婚する事が決まっていた。これらの理由で2人の恋は叶わない。

ならばいっそ死んでしまおうと2人は考え、今宵心中する事を決めた。2人にとって心中とは、現代社会への細やかな抵抗でもあった。

「愛しとるよ、A」

『私も愛しています、鬱さん』

これから死ぬというのに、2人は死への恐怖心など一切なかった。寧ろ愛している人と共に死ねる事に喜びや幸せを感じていた。

2人はお互いに愛を囁き、抱擁し、口付けをする。何度も何度も愛を確かめ合い、お互いが満足するまで続けた。

『来世でも私の事を愛してくれますか』

鬱の夜空を一杯に詰め込んだかの様な美しい瞳を見詰めながら、Aは真剣な面持ちで訊く。自分から滅多に愛を囁かないAが自分から言ってきた事に鬱は驚くも、力強く何度も何度も頷いた。

「当然やろ」

その力強い言葉に安心したかの様に、Aは軽く息を吐く。

「来世も、来来世も、ずーっと愛しとる」

『私も鬱さんの事、来世も、来来世も、ずっと愛してます』

互いに甘ったるい言葉を吐きながら、再び愛を確かめ合った。

来世が存在するかしないかは当然2人には分からない。来世があるなら愛し合ってこの恋を成就させ、来世がないなら互いに愛し合ったまま生涯を終えるだけ。例え地獄に落ちても2人一緒なら幸せだし、例え天国に行けても一緒じゃないなら不幸でしかない。それ程2人は愛し合っている。

街の時計台が午前0時を告げる鐘を鳴らした時、2人は愛を囁き合うのを辞めて空気を体内一杯に吸い込む。そして抱擁し合い、唇を合わせ、そのまま美しい海へと身投げした。

鐘が鳴り響く中、2人は海の底に向かってどんどん沈み込む。