【水縹】秋ノ麒麟草 ページ13
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棺に身体を寄せて、1人の女性が啜泣いていた。女性が悲しみに暮れていると、美しい装飾が施された衣装に身を包んだ1人の男性が女性に近付き立ち止まる。
「また死んでしまったんやな」
棺に寄りかかって泣いている女性を見ながら、男性は抑揚のないトーンで言う。男性の表情は無表情だったが、何処か哀愁を帯びていた。
『……えぇ、死んでしまったの』
女性は声を掛かられた事で漸く男性に気付き、振り返って言う。男性は女性に更に近付いてしゃがみ、空色の綺麗なハンカチで女性の涙を優しく拭った。
『平民の涙を皇子が拭っては体面が悪くなってしまいますよ』
「そんなの知らんわ。体面が悪くなる事よりも、Aが悲しんどる事の方が俺にとっては嫌だわ」
苦笑しながらAと呼ばれた女性は男性の行動を咎めるが、男性はそれを無視して未だに流れ続けるAの涙を優しく拭い続ける。
『コネシマ様は、お優しいですね』
「お前限定やわ」
コネシマ様と呼ばれた男性は、ぶっきらぼうに言う。Aは困った様に笑い、コネシマの手を取って自身の顔から離す。
「俺やったら、他の男共と違ってAを悲しませたり辛い思いをさせたりせえへん」
Aの手を両手で包み込みながら、Aの瞳を見詰めてコネシマは言う。コネシマの真っ直ぐな瞳にAは思わずたじろいだ。
「俺は、Aを愛しとる。俺じゃアカンのか???」
コネシマはAに問う。Aは困った様に笑った。
『お戯れはよしてください、皇子様。一国の皇子様が平民にその様な事をおっしゃてはいけませんよ』
苦笑しながらAの口から紡がれる言葉は拒絶でしかなかった。コネシマはそれを理解し、力無く笑って立ち上がる。
「今度は恵まれるとええな」
棺を優しく撫でるAにコネシマは言い、墓地を後にする。暫く歩いた所でコネシマは立ち止まった。
「なーにが今度は恵まれるとええな、や。あいつが幸せになれへんのも、全部俺が元凶やのにな」
コネシマは後ろを振り返り、過去に自身が屠ってきたAの元彼共の棺を見る。丘にある墓地はコネシマが住まう城からでもはっきり見え、毎日コネシマに自身の罪の量を主張しているかのようだった。
「ほんま皮肉な世の中やなぁ。地位や権力、富、名声は直ぐに手に入るのに、愛しとる女は手に入らへん」
コネシマの言葉は街の喧騒の中に掻き消え、Aの事を想いながら再びコネシマは歩みを進めて城へと戻る。
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作者名：るるるアール | 作成日時：2024年3月16日 9時
