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焼肉は何だかんだ満足したらしい。
焼肉のタレに浮かぶ胡麻には案の定騒いで、プチッと潰してみては、サナギと一緒！と大騒ぎした。
個室になっている店で本当に良かったと痛感した瞬間である。
彼は帰らないという意思表示にビールを数杯グビグビと飲み干し、やっぱり
｢ほんまに帰らへんからあ〜｣
と宣言しながらべろんべろんになっていた。
唯一救われたのは、彼が脂身の多い部位が最近キツいと言い出したことで、おかげで予算よりいくらか安く謝礼を払うことができた。
｢A〜｣
帰り道、彼は予想通り、千鳥足のただの酔っ払いになっていた。
｢なーに｣
真面目に取り合うのすら馬鹿らしいほど、完全に出来上がっている。
私の首に右腕を回して、へらへら笑う姿は本当に本当にただの酔っ払いである。
｢恋心とかけましてぇー｣
｢え、なにそれ笑｣
突然、謎かけが始まった。
恋心、のワードに心臓がひやりとしたけれど、分かるはずもない。
酔っ払いの言うことだ。
｢Aは、なにでとくぅー？｣
まさかの他人任せ。
その心は！をスタンバイしていた私は思わず拍子抜け。
｢えー…じゃあ…｣
｢なにー？その心はぁー？｣
｢まだ早いって、といてないから｣
｢なにでとくー？｣
｢えーじゃあ、小バエとときます｣
｢うぇっ、その心は？｣
｢どちらも気付かぬうちに、あっという間に増えるでしょう｣
我ながら上手い、かもしれない。
自画自賛にひたる私のおでこを、コツンと彼が曲げた指で叩いた。
｢きたないやろー｣
｢うわ正論｣
へらへら笑う彼を連れながら、家はもう近い。
あっという間に増えた小バエは駆除できたけれど、恋心はいつになったら駆除できるのか。
小バエなんかよりずっとずっと、早く気がついているというのに。
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作者名：茉莉花
| 作成日時：2022年8月20日 23時
