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｢うぎゃーっ！うぎゃああー！｣
まだまだ暑い夏の日。
一人暮らしを始めたばかりの部屋。
早速といっていい小バエ軍団の襲撃に、私はせっかくの休日を掃除に費やすしかなくなっていた。
同じ部屋から聞こえてくる悲鳴に似た叫び声は、高校時代からの友人のもの。
助けてと電話をしたのは昨日で、我ながら申し訳ない理由で連絡したなとは思うけれど、彼は電話口で散々文句を言いながらも来てくれた。
｢きっしょっ！お前これ見ろやあ！｣
｢昨日見たから呼んだの！｣
｢見てへんやろ、うわあああ｣
｢それ気持ち悪いよね、無理無理｣
｢無理無理ちゃうやろ！何で生ゴミ捨てへんかったや！｣
｢ちょっと忙しくて…つい、｣
｢つい、で呼ばれた俺の気持ちなれやあ！！｣
部屋にぶんぶん数匹の小バエと、シンクにぽつぽつのサナギ。
見た瞬間に無理！助けて！と泣きながら電話をかけるだけかけて、昨日は同じアパートの友人の部屋に泊まった。
もちろん、アパートの友人に助けを求める考えもあったけれど、友人ときゃあきゃあ言ってても掃除が進む気はしなかったのだ。
｢…ごめん、今日の予定潰しちゃった？｣
｢丸潰れやでほんまに。そんでサナギ潰しや｣
｢それは本当にごめん｣
プチッと潰してみては、ぎゃあー！と足をジタバタさせて遊んでいる。
マスクのせいで顔の半分は見えないけれど、凄まじい顔をしているのは目元、特に眉毛の動かし方でわかった。
｢しげちゃん、ガムテープでやっていいよ｣
｢シンクがベタつかへん？｣
｢そこは上手くやって｣
｢なんやそれ、もう！｣
そう言いながらシンクの前に膝立ちして、うぉりゃあー！ガムテープ攻撃やあー！なんてサナギ駆除に勤しんでいる彼はつくづく良い人だと思う。
そこにつけこんでいる私が最低なのは一回忘れよう。
部屋に置いた麺つゆ+洗剤のトラップに溺れる小バエを見ながら、ため息をついた。
｢重岡さん、謝礼の方なんですけれども…｣
｢肉！｣
｢近所の焼肉屋さんでもよろしいでしょうか｣
｢ええよ。おごってな｣
｢もちろんです！｣
近くにあった財布の中身を確認。
うっ、心許ない。
これはコンビニ経由の焼肉決定だな…。
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作者名：茉莉花
| 作成日時：2022年8月20日 23時
