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「…大丈夫です」
初めて「あぁ」とか「はぁ」以外の言葉を喋った…！
「いやいや、大丈夫じゃないですよ。風邪引いちゃいますよ。鍵どうしたんですか？」
「昨日実家に行ったとき置いてきちゃって、親が帰るの夜になるから、車で届けてもらうの遅くなるって…」
「なら上がってください。小さい子だったら凍死する寒さですよ。温かいお茶買ってきたんで、少し暖まって行ってください」
「…なにもしない？」
「何をするんですか！するわけないでしょ」
いきなり何を言い出すかと思えば、俺は変態か。
さすがに見ず知らずのお隣さん、しかも男の子に手を出すほど溜まってはいない。
意外とちゃんと話しできるんだ、なんて失礼ながらも思ってしまった。
中に入れてやると、すぐにバスタオルを手渡す。
「着替え貸すから、シャワー浴びていいよ。濡れたままじゃ寒いでしょ」
「…なにもしないよね？」
「だからしないって！」
どんだけ疑われてんだ。
そんなに俺、怪しい人間に見えるか？
まだ少し警戒気味ではあるが、なんとか風呂場へ誘導することに成功した。
俺は着替えだけ置いておくと、彼のびしょ濡れになったカーディガンや帽子をハンガーにかけようとかっぱらっていく。
少し多目に惣菜買ったけど、あの子食べるのかな。
いざとなればカップラーメンもあるし。
お腹を満たせるくらいにはしてやれそうだ。
年下だと思うと世話を焼きたくなるのは、やはり弟がいるせいもあるのだろう。
味噌汁(当然インスタント)を入れながら上がるのを待っていると、風呂場の扉が開く音がした。
俺が冷蔵庫から飲み物を取り出していると、ふわっと石鹸の良い香りが漂った。
「あの、お風呂ありがとう」
「あぁ、全然…」
と、言いかけて彼の方を見た瞬間、思わずビールを落としそうになった。
濡れた茶色い髪から水が滴って、ぷくっとした頬を伝う。
少し見えていた唇は小さくて柔らかそうで、その上にある水分の多い瞳が俺をまっすぐにとらえていた。
「なに…？」
「えっ！？い、いや、なんでも！！」
誤魔化すようにバタン！と冷蔵庫の扉を閉めた。
俺、今完全にあの子に見とれてたよな…。
男相手に何考えてんだ？
でも、まさかあんな顔してるなんて。
大丈夫、ちょっとびっくりしただけだ。
俺はいたって平常心。
「あっ、これさっき言った温かいお茶。よかったら」
「あぁ、ありがとう」
ペットボトルを手渡すと、少し大きめのスウェットを貸したせいか、手の半分まである袖から細く綺麗な指先だけが見えた。
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作者名：京
| 作成日時：2021年3月21日 15時
