お隣さんとお兄さん (ページ15)

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「時代遅れだなんて思わないし、智くんのやっていることが間違いだとと思わない。悪いのは、その気持ちを利用して自分の欲望を満たす人間のほうだよ」

俺の心は、だんだん苦しさから怒りに変わっていた。

「でも、俺もまだ社会人になったばかりだけど…このまま続けてもし智くんが智くんじゃなくなったら…それ以上に悲しいことはないよ」

「俺が、俺じゃなくなる…？」

「俺といるときみたいに、素直で笑ってくれる姿が本当の智くんだとしたら、今はそれを失いかけてるような気がする」

「…失ったら、どうなる？」

彼はこちらを見上げると、不安げに瞳を揺らがせた。

とどまることなく零れ落ちる涙が不覚にも綺麗だと思って、そっと柔らかい頬を包み込むように両手で触れた。

そして涙を掬うように親指で目尻を拭う。

なんて純粋な目をしているのだろう。

こんな子を、自分のエゴに利用するなんて。

自分のことのように悔しかった。

「失ったときのことは、誰にもわからないし、見えない。だから、今だったら止められる」

「…そっか、」

それだけ言うと、目を閉じたまま、ぽろぽろと静かに涙を流した。

俺は優しく抱きしめて、また彼に触れた。

震えは収まっていて、背中を上下させゆっくり深呼吸しているのがわかった。

なんだかそれが愛おしくて、このまま離したくないとすら思った。

俺たちはしばらくの間抱き合ったまま何も言わなかった。

今日は一人にしないほうがいいだろうと思い泊めてあげることにしたけど、果たしてこの選択は正解なのだろうか。

俺は寝る支度を整えると、ワンルームの端に置かれたベッドにいる彼を横目に、ソファーに寝転がろうとした。

「お兄さん、こっちで寝ないの…？」

毛布から顔だけだした状態で智くんが言う。

「ベッド狭いから、ソファーで寝ようかなって思ったんだけど…」

「狭くないよ。こっち来て」

「えっ、でも…」

「お兄さんは、俺と寝るの嫌…？」

そんなうるうるの瞳で聞かれて断れるやつがいるのだろうか。

正直狭いのは確かなのだが、今日くらいはいいか、と俺は部屋の電気を消しベッドに歩み寄った。

枕元のライトだけが点いていて、白いシーツがオレンジ色に染まる。

ゆっくり潜り込むと、彼の体が細いこともあり、意外とゆったり幅が取れた。

これなら全然眠れるかも。

俺は電気を消そうと、そっと枕元に手を伸ばした。