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「金持ちと知り合えてラッキーって、そう思えって言ったよな？」
え、それって…。
「いいよ、学費は俺が出す。全面的に支援する」
「えぇっ！？そ、そんなことさせられな…！」
「それだけ俺はお前を押してたんだよ！別に失敗したっていい！俺はお前の歌が聴きたいんだ！！その気持ちだけは無駄にするなよな！！」
「し、信じられない…」
「信じようが信じまいが、もう決まったことだ」
今度は立ち上がり、翔くんの前に立ちはだかる。
「別に智を取ろうなんて思ってねぇけど、一度繋いだ手は絶対離すなよ？離したときは、遠慮なくいくから」
「あっ…はい、」
相変わらずキザな台詞を投げ掛けると、サングラスを装着し車に乗り込む。
そして窓を開け、身を乗り出して言った。
「翔くんさぁ、これ。持ってけよ」
差し出したのはなんと一万円札。
意味がわからず二人して狼狽えていると、それを折り畳んでズボンのポケットに押し込んだ。
「今日歌わせたのは俺の責任だから、治療費。怪我しててもイケメンだな。ははっ」
何が面白いのかよくわからないが、お礼を言う間もなくまた狭い路地をすごいスピードで走って行った。
「…なんか、すごいね」
「う、うん…って、翔くん本当に大丈夫！？俺、あんな人が店に来てるなんて全然気づかなくて」
「大丈夫じゃないよ」
「えっ…」
行き場のなかった片方の腕が腰に回ると、彼の顔が迫ってきて、後ろにあった自転車に手をつく。
ガチャン、と静かな路地にサドルの当たる音が響き渡る。
微かに覚えた鉄の味も、すぐ唾液で消し去られた。
いつも俺を気にかけてくれて、許してくれる、大事な人。
好きって言葉じゃ足りないくらい、なんでこんなに好きなんだろうって思う。
何年か経ってこの気持ちが無くなってしまうのが怖い。
いつまでこうして助けてもらえるのかな。
だから、いつもキスするときは、これが人生で一番気持ち良いキスって思うくらい味わうことにしてる。
翔くんもそう思ってくれてるといいんだけど。
「はっ…飲み会抜け出してきたんだから、最初から全部聞かせてよね」
「ん、ごめ、なさ…」
そのまま腰を押されエントランスに入り階段を登りきると、ドンッとドアに体を押し付けられた。
「でもその前に、今はあなたが欲しい」
「っ、しょう、く…」
ごめんね、ごめんねって罪悪感をかき消そうと心の中で謝っても、嬉しい気持ちが表に出てしまう。
やっぱり俺は、嫌ってほど甘えさせてくれる彼に、与えられたまま甘えてしまうんだ。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
