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「そういうやつらを、見返したいとは思わないか？」
松岡さんは俺たちに近付く。
いつもの気さくな感じはなく、真剣な表情で、ただならぬ威圧感を浴びせた。
「お前の歌なんか誰も聞いてない。顔しか見てない。その評価をされてしまうのは、実力に名声が追い付いていないからだ。でも有名になれば違う。人は嫌でも歌うことを求めるようになる。あんなやつ見返して、二度と退屈なんて言わせないようにしたいって、そう思わないか？」
「…それは、」
そこまで言われても、まだ決めかねている。
目を泳がせ返答に困っていると、強く肩を抱かれた。
「あなたが決めることだよ。俺は智くんの夢を応援したい。だってそのために書道の道には行かず、ここに残ったんじゃないの？」
「翔くん…」
「やらないで後悔するより、やって後悔したほうがいいよ…って、ありきたりなことしか言えないけど」
俺は松岡さんと翔くんを交互に見る。
二人はもう、それ以上何も言わなかった。
決めるのは、俺の役目だから。
「…一回、断ったのにいいんですか、？」
その言葉を聞くと、松岡さんの瞳が明るくなったような気がした。
「まだ別れてなかったから、セーフ」
パッと顔を上げ、翔くんのほうを見た。
本当にいいの？という目で伺うと、彼は笑みを浮かべて、うんうんと頷いた。
どうしよう…俺、本当に決めちゃったんだ。
実力なんかわからないし、自信もない、とにかく不安だらけ。
それでも、本当にいいのだろうか。
「よし、決まりだな。まずあのジャズバーで売り出そう。あそこを一流の店にするのも俺の仕事だから」
「あの、松岡さん…ひとつお願いが！」
「ん？なんだ？」
「が、学校に、行かせてくれませんか…？」
「「学校？」」
二人の声が被る。
心の底で悩んでいたこと。
このこともあったから、決めかねていたところもある。
「音楽のこと、もっと知りたいんです！音大とかはきっと無理だから…せめて、今の仕事に生かせることだけでも勉強したくて…」
「智くん…でも、ご両親にはそのこと言ってないんじゃ、」
「説得、する。歌手になることも含めて…」
松岡さんは会話を聞きながら頭を掻いた。
「別にいいけど、金はあんの？学費だけでもかなりかかるぞ」
「なんとか親に借りて、奨学金とかで…」
「お前さぁ、俺は前なんて言った？」
「え？」
松岡さんは俺の頭に手を置くと、目の前にしゃがみこんだ。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
