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「はぁ？歌って？なんかよくわかんねぇ英語の曲ばっかりで、退屈にしか感じなかったよ。お前の歌なんか誰も聞いてねぇだろ。取り柄はその顔と体だけ。だからせいぜいそうやって男ども引き連れて守ってもらえよ。いずれ後悔させてやるからな」
「っ、」
あまりの言いように頭に来て言い返そうとするも、今度は松岡さんが俺の胸を抑え飛びかかろうとする体を止めた。
「興味ない人間からしてみれば、絵画の良さも、歌声の良さも、紙一重だ。その感想は正しいし、否定もしない」
ただな、と言って松岡さんは続ける。
「少なくとも智はお前なんかよりよっぽど努力してるし、才能もある。ここで姑息な真似をして人を否定するような意見を言うやつにこいつを好きになる資格はない。さっさと帰れ」
「なんだと…！」
男が食い下がろうとすると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
近隣の住民が通報したのだろう。
男はまずい、という顔をしてバイクに乗り込むと、ヘルメットもせずにエンジンをかける。
「おい、待てよ…、」
「翔くん！もう、いいよ」
「でも、」
「警察が来たらすぐ逃げるようなやつ、きっと相手にするだけ無駄だよ」
慌てて去っていく姿を目で追いつつ、辺りはまたしん、と静まり返った。
パトカーのサイレンは近くまで来たものの遠ざかっていく。
どうやらここへ来るわけではなかったようだ。
あの男の身元は卒業アルバムを見ればすぐ割れるし、翔くんと同じ大学なら一気に噂が広まるだろう。
でも、ひとつ心残りが。
「翔くん、ごめんっ…」
口元が痣になってしまった彼に、勢いよく抱きついた。
「ごめん、ごめんね…俺のせいで、」
「いいんだよ。智くんが無事だったならそれで。でももう、ひとりで帰らないでよね」
「うん…」
俺たちが駐輪場の灯りの元抱き合っていると、傍から咳払いが聞こえた。
「お熱いこったなぁ。美男子同士でまあ絵になること」
「松岡さん…ありがとうございました」
「別に例には及ばないけど、お前はどう思う？」
「何がですか…？」
「表に出るってのはこういうことだ。どこから虫が沸いて来るかはわからない」
いったい何が言いたいんだ？
俺が顔をしかめていると、彼は続けた。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
