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「翔くん！！！」
倒れた翔くんを助けようとしゃがもうとするも、後ろから腕を引かれ制止される。
「いいじゃん、そんな弱いやつ。俺んとこに来なよ」
「やだっ…翔くん！！！」
誰でもいいから助けて。
俺のことはどうでもいいから、翔くんのことを…！
その瞬間、前から物凄勢いで迫ってくる車が。
俺は油断している隙に腕を振りほどくと、翔くんを引きずってアパートの駐輪場まで避難した。
逃げ遅れた男は車を目の前に間抜けな格好で止まるよう腕を伸ばすと、ギリギリまで止まることはなく、逃げるように走る男に車が追撃した。
そして逃げきれず転んだところで車は止まった。
ていうか、あれは…。
「なんだよお前、危ねぇなぁ。気を付けろ！」
「なっ…てめぇが気を付けろ！！れっきとした交通事故だぞ！！」
黒のロールスロイスに、姿を見せたのはスーツ姿にサングラスの男性。
「松岡さん…」
「よう、智。お前もう少し大通りに面したところに住めよ。坂多すぎだぞ」
「なんで…帰ったんじゃ、」
「帰るフリをして最後まで見送る。これ好きなやつに対する男の鉄則だろ。なぁ、翔くん」
俺が抱えたままの翔くんを立ち上がらせると、目の前でサングラスを取った。
「あなた、こないだの…」
「あーあ、綺麗な顔が台無しじゃん。今どき好きなやつ守ろうとして殴られる男っているんだな。ウケるわ」
そう言いつつ、高そうなハンカチを胸元のポケットから取り出すと彼に手渡した。
「ところでお前、好きならもっと堂々としろよ。こそこそ家突き止めて待ち伏せなんて野郎のすることか？」
「、るせーな。俺だけじゃねぇよ。櫻井のこと恨んでるやつなんてたくさんいるんだからな。制裁を下せてやって清々したよ！」
「なっ…何が制裁だ！俺が来なかったらお前智くんに…」
「翔くん、もういいよ！！」
ぐっと腕を掴んで口論する彼らの間を割って入る。
松岡さんも、翔くんも、俺を不思議そうな顔で見つめる。
「君が俺のこと好きなのはわかった。でも、バーに来てくれたのは、俺の歌が好きだったからだよね…？」
あの投稿がなければ、今日歌えなかったかもしれない。
一瞬でも俺の歌を聞きたいと思ってくれていたのなら…その感情が、彼にもあるのなら。
過激なファン。そういうものとして受け止められるかもしれないのに。
現実は、俺が思っているほど甘くはなかった。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
