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「はい、飲む？スープだけど」
「あ、ありがとう」
なんだろう、ミネストローネかな。
具だくさんで、トマトとスパイスの良い香り。
一口啜ると、全身に流れ込むように染み渡った。
「おいしい、」
「よかった。具合悪いときは消化に良いスープが一番だからね」
「どうして助けてくれたの？」
ベッド脇の椅子に腰を掛け、スープを飲む姿を見つめる彼に問いかけた。
「知ってる子が倒れてたらそりゃ助けるでしょ」
「でも、わざわざ家にまで連れてきてくれて、寝かせてくれて…」
「わざわざってか、むしろまたとないチャンスくらいに思ってたけどね」
「どういう、こと？」
すると准くんは平らげたスープの器を俺から奪い、テーブルに置いた。
代わりに彼の手が重なり、片方の手で肩を抱かれる。
「だって、大野くんって学校じゃ俺のこと警戒してるでしょ？」
「ちょっと、近…」
間近で見る整った顔に、一瞬胸が高鳴った。
誰がどう見てもかっこいい。
とはいえ、この人も俺のことをそういう目で見ている。
そう思うと、翔くんに言われた言葉が頭を過る。
だからだめ、逃げなきゃ。
そういうつもりがなくても、今同じことをしてしまえば、見限られてしまう。
「俺のことが怖い？」
「怖いっていうか…あんまりこういうのは、」
「こういうのって、どういう？」
「あの…」
もう唇が触れ合いそうなほど距離が近くて、喋ると息がわずかにかかって、くすぐったさを覚える。
伏し目がちな瞳に、長いまつげが光る。
この人も、綺麗な目をしてるな。
心の中でそう思った。
綺麗な目をした人は、きっと理解し合える存在。
だって今までがそうだったから。
だからきっと、今回も。
「俺に何かされると思ってる？」
「え…？」
准くんはニヤッと余裕そうな笑みを浮かべた。
「ここでキスして押し倒してもいいけど、それやっちゃったら終わりでしょ？だから、焦らしてあげる」
「なっ…どういう、」
「大野くん…じゃなくて智くんさ、俺んとこの事務所入らない？」
「准くんの…？」
「松岡なんかについてったって、せいぜいバーの看板歌手がいいとこ。でも俺の事務所なら、智くんをメジャーにできるし、収入も桁違いに跳ね上がると思うよ。どう？」
どう？って言われても、もう松岡さんのところでやるって決めたのに。
そんな急に誘われて覆せるわけがない。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
