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今日の店は、やけに静かだった。
黙々と作業をしていて、土曜日の割に従業員も少ない。
春休みが終わってこれといったイベントもないこの時期は、土曜日でも入りが悪いときがある。
新しく入社してくる社員やバイトの人が多いから、研修にはもってこいのタイミングだ。
「あらー、智くんてば、ちょっと元気ないんじゃないの？」
「店長…」
「顔色も良くないわねぇ。松岡さんにしごかれてる？無理してない？」
「たぶん昨日ちょっと飲みすぎたからかと」
とか言いながら、二日酔いなんかとっくによくなっていて。
沈んでいる原因はもちろん今朝の翔くんとのことだった。
ひとしきり泣いて、俺は心配する彼をよそに寝室に閉じ籠ってしまった。
起きたときには彼はいなくて、LINEで買い物行ってくる、とだけ連絡を残していた。
俺は夕方から出勤だったから顔を合わせることなく、お互い何も解決しないまま中途半端に時間だけが過ぎていく。
「もう今日は帰ったら？店長やるから、安静にしたほうがいいわよ」
「でも、シフト全然入れてないんで、こんなときくらい働かないと」
「バカねぇ。そういうときこそあの成金男を頼らないと。ちょっとパンツ見せればお小遣いくらいくれるわよ」
「ただの変態じゃないですか…」
でもなんだか体調が思わしくないのも事実で。
それでもあまりすぐには家に帰りたくなかった。
喧嘩したばかりだし、仕事をして紛らわせればと思っていたが。
「ねぇ、智くん。もし辛いなら、いったん離れてみるのも手よ？」
「いや、ほんと飲みすぎただけなんで…」
「そうじゃなくて、彼のことよ」
「え…？」
俺は配線する手を止めて店長を見上げた。
「今大事なときでしょ？変に悩んでるといろんなところに影響出ちゃうわよ。あなたの将来なんだから。彼のことが頭にあって集中できないのなら、自分から一度立ちきってみたら？」
「わ、別れろって言うんですか！？」
「そうじゃなくて！別に一緒に住んでるから毎日顔合わせてるだけで、普通の恋人は忙しいと１ヶ月に一辺しか会えないことも普通なのよ？」
「だからって、そんなことしたら翔くんがなんて言うか…」
「翔くんがなんて言うかは問題じゃないの。あなたがこのままやっていけるのかどうかが問題なの」
その問題がいったい何なのかがわからない。
悩み事のひとつやふたつ、誰だって抱えてるはずだ。
確かに今は将来を決める大事な時期だ。
だからって、あの翔くんと離れるなんて考えられない。
俺には絶対、彼が必要だ。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
