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松岡さんにお礼を言って階段を上がると、おそるおそるドアを開ける。
大丈夫、シャワーも浴びてきたし、
二日酔いの薬も飲んだし。
いたって冷静、大丈夫。
バタン、とドアがしまった瞬間、奥のリビングから足音が聞こえてきた。
「智くん！」
「翔、くん…ごめ、なさ…」
そういい終わる前に、廊下を小走りで向かってきた彼に、腕を取られた。
「はぁー、よかった。ほんと心配したんだから」
「ご、ごめんなさい…」
「いいよ。智くんが無事だったから、それだけで安心」
ズキッと胸が痛んだ。
迷惑かけたのに、そんなふうに言ってくれるなんて。
俺の心の中は申し訳なさでいっぱいになった。
「翔くん、寝てないの…？」
少し目の下に隈ができている。
ずっとソファーにいたのだろう。テーブルには飲みかけのコーヒーが置いてあった。
「今日休みだったし。映画でも見ながら待とうと思って。気付いたら朝だった」
恥ずかしそうに笑いながら話す。
「そうまでして…本当にごめん」
「いやいや！松岡さんに怒られたけどね。過保護すぎだって。俺もまだ最初だから智くんが上手くやってるか心配でさ」
「ありがとう、翔くん」
「いいよ。それより、こっちおいで」
ソファーに腰を掛け、腕を広げて俺を呼び込む。
いいのかな、と思いつつ、バッグを置き彼の膝に乗っかった。
「やっぱり１日１回はこうしないと落ち着かないなぁ」
「俺も、ずっと会いたかった」
ぎゅーっと思い切り背中に腕を回され、頭を胸に抱き寄せる。
翔くんのいつもの温もりが体全身に広がって、言葉では表現できないような安堵感を覚えた。
「失敗したな。お店まで迎えに行けばよかった」
「もう、そこまでしなくていいって！」
「だって１分でも早くあなたの顔が見たいし。それに、やっぱり一人にするの心配だから」
「でも、昨日は終わってすぐにホテルに向かったし。みんなカラオケに行ったみたいだけど」
「そうなんだ。智くんだけ行かなかったの？」
「ううん、あとカズも行ってない。俺を送ってくれたから…」
あっ。
文字通りの言葉がそのまま小さく発せられた。
自分は何を言ってるのだろうと慌てて胸から顔を離し、彼を見上げた。
そのときの翔くんの表情は、なんというか…とにかく怪訝そうだった。
カズって誰？って疑問と、送ってもらったってどういうこと？って疑いと、その他にもたくさん何か言いたそうに俺を見下ろしていた。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
