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「別に俺、音楽に興味出たら連絡しろって言っただけだし。智が気に病むことなくない？」
「でも、連絡くれなかった…」
「寂しかった？」
「…うん、」
こくっと頷きながら言うと、カズは肩を抱いて自分の方へ引き寄せた。
「相変わらずかわいいね、智は」
「そ、そう？」
「なんとなく、いつかこうなる気はしてた。それである日あの店の投稿を見て、まだお前がちゃんと働いて歌ってることに安心した」
「カズ、見てたの…？」
「そりゃフォローしてるし、嫌でも見えるよ」
携帯を開き、俺が初めて歌った日の動画を再生する。
そこには初々しい緊張した自分の姿があって、後ろにはカズがいて。
あの日は翔くんが見に来ていて、もしそれがなかったら俺、緊張して倒れていたかもしれない。
「俺は自分をならざるべくしてなる男だと思ってるけど、智はなるべくしてなる男って感じかな」
「どういうこと？」
「努力よりも先に、天性の才能が光るってこと。誰がどう聞いたって、あの歌声は素晴らしいと思うよ。それが偶然あの偉そうなプロデューサーの目に止まったわけだろ？もう運命として決まってたとしか思えないよな」
確かに、松岡さんもたくさんのジャズシンガーをプロデュースしている中で俺の動画を見た人だ。
たかだか一度歌ったくらいの素人にあそこまで目をかけてくれるなんて。普通だったら絶対にありえない。
未だに裏があるんじゃないかって思うこともあるけど、それ以上にあの人を信用している自分がいる。
「智が少しでも音楽に興味を持ってくれたことが、俺は一番嬉しいよ」
「どうして、」
「やっと同じラインに立てた気がして。俺がお前に求めることを強制はできなかったから。でも今なら、遠慮なく語り合えるだろ？しかも、同じ学校にいるなんて。気持ち悪いかもしれないけど、ほんと夢みたい」
「カズ…」
「好きなやつと同じクラスとか、中高ですらなかったのに。今更青春かって感じだよな」
「す、好きって…もう、」
「わかってる、もう友達。ね？」
最後に会った日の、あのカズに戻ったように見えた。
再会したときの一時の感情が、想いを昂らせたのだろう。
カズは今でも純粋に音楽を愛していて、俺のことを認めてくれていた。
あんなに厳しかった彼に褒められるのはなんとも歯痒いものだが、初めて彼と対面したときの俺に言いたい。
その人とは一生の大切な親友になるかもしれないって。
だから、怖がらないでって。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
