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「でさー、このバンドがめっちゃ良くて…」
「へー…」
「そのバンドいいよね！！私ボーカルが好き！」
音楽関係の学校だけあって、みんな何かと音楽の話題が多い。
俺なんか世間知らずもいいところだから、いま何が流行ってるのかもさっぱりわからない。
バーで歌う曲は英語の曲ばかりだし。
「大野くん全然飲んでないじゃん！ほらもっと飲んで！」
「俺お酒はあんまり…」
「飲まなきゃダメだよー。ウィスキーは飲んだことある？」
「ないけど…」
「飲んでみてよ！一口だけ！！」
ずいぶんと飲ませたがりな人たちだなぁ。
戸惑っていると、みんなが期待の目で見てくる。
やっぱりお酒は多く飲んで耐性をつけるものなのかな。
俺は渡されたグラスに少しだけ口をつけた。
「うぇっ…なんだこれ、」
「だよねー！！それいいよ、飲んで。俺もう一個頼もう」
いや、いらないんですけど…。
まあ、でも、俺みたいな消極的なやつはお酒の力を借りないと場の空気に入り込めない。
仕方なく手元にあるウィスキーを少しずつ飲みながら、よくわからない話に相槌を打つのだった。
「はー、もう無理、」
頭はクラクラ。視界はゆらゆら。
壁に寄りかかって酔いを冷まそうと少し休んでいるところ。
もう23時なのに、一向に終わる気配がない。
なんであんなに元気なんだ？
よくよく考えれば、平日は毎日学校に行って、その後はバイトかボイトレで。
土曜日もフル出勤だし、まともに休めるのは日曜日だけ。
その日曜日ですら松岡さんからの電話で落ち着かないときた。
そりゃ疲れるよなぁ…なんて、ボーッとする頭で考えたり。
「あれ、大野くんじゃん」
「あぁ…」
…誰だっけ。
「覚えてる？岡田准一だけど」
「あっ、准くん」
「ちょっと待って、本気で忘れてたの？」
くすくす笑う彼をよそに、俺は翔くんのことを思い出した。
心配してるかな。早く帰りたいな。
なんだか今日は、翔くんに会っていっぱい甘えたい。
抱き締めて、頭撫でて、キスして…。
ぎゅーっと寂しさに胸が苦しくなっていると、准くんが正面に立ちはだかる。
「大丈夫？」
「ん…平気、」
彼の手が頬に触れる。
俺は目を伏せているけど、きっと顔を見られているはず。
嫌だな…こんなみっともない姿、見ないでほしい。
こんな姿見るのは、翔くんだけでいいのに。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
