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「松岡さん早くしてよ！終わっちゃうじゃん！！」
「俺はアッシーか！てめぇでタクシー掴まえろバカ！！！」
「またバカって言った！」
「バカじゃなきゃ何なんだ！ロールスロイスの燃費の悪さ知ってんのか！？」
「そんな怒らなくたっていいじゃん！！」
後部座席のシートにもたれかかってぷくっと顔を膨らますと、一連の行動を見ていた松岡さんが、深くため息をついた。
「いいか、智。デビューまであと１ヶ月もないんだから。変なトラブルにだけは巻き込まれるなよ」
「トラブルって…？」
「少なくともあのガキんちょと岡田の息子には気を付けるんだな。あと、変に目立つから自分からジャズシンガーだとも言うな」
「なんでカズにまで気を付けるのさ」
「お前に気があるからだよ。彼氏いるんだろ？気持たせるような行動はするな。何か言われてもきっぱり断る精神を保て」
何かとカズとのことは恋愛沙汰と捉える松岡さんに内心うんざりしていた。
だってもう、それは終わったこと。
好きって言ったって、それは一時の感情であり、友達になろうって言葉は忘れてないはず。
じゃなきゃもう、俺に普通の友達ができなくなってしまう。
これじゃ、高校生のときとまるっきり一緒だ。
「あんまり遅くなるなよ。これからスタジオ入って朝まで迎えに来れないから」
「そんななんでもかんでも頼れませんし…帰りは自分の足で帰りますよ」
「帰れなかったら最悪ホテルに泊まれ。後で出してやるから」
「大丈夫だって！」
松岡さんも翔くんに負けじと本当に心配性だ。
そんなしょっちゅう何かあっては俺の体だってもたないのに。
エレベーターで上がって店に着くと、みんなのいる個室に案内される。
「あー、大野くん来たー！」
幹事の女の子が俺を呼び込むと、適当な場所に座らされる。
もうすでにみんなできあがっていて、なぜか抱き合っている男女まで見受けられた。
「あれ、今日ってカズは…」
「カズって二宮くん？あそこにいるよ」
ぼそっも呟いた声を隣の男の子が拾ってくれて、俺がいる席とは対角である、奥の壁際の席を指差す。
見れば女の子と談笑していて、二人とも酔っているのか、腕を絡ませたりスキンシップが多いように見える。
それを見てなんだかちょっとだけ落ち込んでしまい、苦手なお酒を一口含んだ。
ガヤガヤとした室内は、バーにいるときとはまた違う、キラキラとした笑顔で溢れていた。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
