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この１年は俺にとって忘れられない大事な年になった。
高校に入りたての頃と比べると自分が自分でないような気がするし、まだ自分がどこに立たされているのかはっきりと理解できていない。
バーの事務所と契約して、松岡さんからの指示でまずは専属シンガーとしてここで歌うことになった。
しかし俺ばかりが歌うわけではない。
外国人の歌手やバンドもたくさんいるし、歌わない日はいつものように音響に専念するのみ。
やってることは、今までと変わらないわけだ。
契約としては４月からで、それまでは学校探しに追われていた。
具体的に何を勉強したいかって言われるとよくわからないけど…どうせなら今の仕事に役立てたほうがいい。
そんなわけで松岡さんが出身の専門学校を紹介してもらって、音楽の技術面を学ぶことに。
何でそっち方面なんだって聞かれたけど、今の俺はまだプロではない。
楽器のこともわからないし、音作りの仕方も独学だ。
何より、大学生ってわけじゃないけど、そういうのを経験してみたかった。
昔の自分だったら、学校なんて二度と行きたくないとすら思っていただろうけど、今の自分ならなんとできる気がする。
この１年でいろんなことに触れて、いろんな人と出会えた。
人との関わりでここまで変われるなんて、いまだに信じられない気持ちでいっぱいだ。
それだったらもっと幅を広げていけたらって、それが決断した一番の理由だった。
「じゃ、気をつけて。終わったら連絡しろよ。今日からスタジオでボイストレーニングだから」
「わかりました、ありがとうございます」
学校の目の前に堂々とロールスロイスが停車している。
いったい何事かと視線を集めたが、気にするのとなく松岡さんを見送って校内へと足を進めた。
やっぱり、学校って緊張するなぁ。
それに俺はこの人たちよりきっと１つ年上なんだろうし。
年上の人っているのかな…俺だけだったらどうしよう。
年齢言わない方が得策かも。
教室に入りどこに座ろうかきょろきょろと見渡していると、一点に視線が集中する。
正直、嘘じゃないかと思った。
奥の端の方に座って、携帯をいじっている。
黒髪に、幼い顔立ち。
パーカーにジーンズというラフな格好。
何回か瞬きをして、何度も何度も目を凝らした。
それでも、似ていた。
似ていた、というよりは、もはや本人だった。
そこに座っているのは、紛れもなく、あの二宮和也だったのだから。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
