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ニューヨークの冬はとにかく寒い。
ベランダのテラスから見る街の景色はすごく綺麗だけど、コートを着込んでいないととても座ってはいられない。
お母さんがホットミルクを用意してくれて、そのテラスで二人の時間を楽しんでいるところだ。
「よかったね、許してもらえて」
「うん…俺ね、あんまり自分から何かやりたいって言ったことなかったから、父ちゃんがあんなに寛大なの知らなかったの」
「そっか。まあ、それもあるかもしれないけど、智くんの実力が伴ってなきゃきっと許さなかったと思うよ？」
「実力…？」
「うん。あなたの歌は、世界中に聴かれるべきだって俺も思うし」
「ふふっ、嘘でも嬉しいな」
いつものように柔らかい笑みを浮かべながら、手袋をしたままカップに口を付ける。
よかった、いつもの智くんに戻ってくれて。
それを見て俺も顔を綻ばせる。
「嘘かどうかは、もう証明されてるんじゃないかな」
「ん？」
「みんながあなたを求めてるなら、それがすべてだよ。ご両親も、店長さんも、松岡さんも、俺だって。何より、お客さんがね」
「俺は別に有名にならなくていいなぁ。あのバーが満席になって、みんなお料理食べながらBGMみたいに聴いてくれて、でも最後には拍手が起こって。それが、一番幸せ」
歌手になりたいって気持ちは他の人とは微妙に違うのかもしれないけど、それでも人は歌声に惹き付けられるもの。
その才能を持って生まれてしまった彼は、自分の意に反して求められるものが多くなっていくのだろう。
「でも、もし人気出たら、ちょっと寂しいよね」
「え、なんで？」
「だって、俺だけの智くんじゃなくなるってことでしょ？」
冗談めかしに呟くと、彼は目を丸くして腰に密着してきた。
「なら、翔くんが俺のこと離さないでよ」
なんてかわいいのだろうか。
厚手のコートを身に纏って、真ん丸のふわふわした体が余計に愛おしく感じた。
「離すわけないじゃん。智くんこそ、俺から離れないでよね」
「離れないし。だからくっついてんじゃんっ！」
「なら、もっとくっつく？」
彼を膝の上に乗せて抱き合いながらキスしようとすると、ガラッと勢いよく窓が開いた。
「智と翔くん、明日ロックフェラーセンター行くわよね！？」
「「………」」
ロックなんとかって何？という声が下から聞こえ、俺はただただ苦笑するのだった。
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作者名：京
| 作成日時：2020年8月16日 14時
