４４ ページ44
今日１日はすごく穏やかな日だった。
雨だったから買い物行く以外はずっと、翔くんと二人きりで過ごした。
こんなにゆっくりしたのは本当に久しぶりで、１日が終わらなきゃいいのに、とすら思った。
「いい匂いだね。カレー？」
「うん。久しぶりに作った」
「智くんって何気にちゃんと料理もできるよね」
「母ちゃんが好きなんだ。姉ちゃんも嫁入り修行とか言ってやらされてたし。」
「嫁入りねぇ…」
ぴたっと鍋をかき混ぜる手が止まる。
昨日結婚とかあんなこと言っちゃったけど、やっぱり気にしているだろうか。
いや気にするのは普通俺のほうなんだけど、でも俺だって男だ。
ありえないかもしれないけど、翔くんだって自分が女の子だったらって考えてたりとかするんじゃ…
「智くんがお嫁さんだったら最高に幸せだろうなぁ…」
っていうのは、無さそうで安心した。
「俺たち、結婚できるのかな？」
「日本では無理だけどね。でも絶対、できるよ。だってこんなに好きだもん」
翔くんは後ろから俺を抱きしめて、頬にキスをする。
ときどき呟く甘い言葉にもどかしさを感じるときがある。
俺ももっと言ってあげたい。
でも翔くんみたいな言い回しはできない。
だから、そういうときはたった一言だけ返す。
「俺も、好き」
そしたらいつも唇を触れ合わせて、しばらく二人だけの時間になる。
頭ではお鍋の底、かき混ぜないと…と思いつつ、癖になったみたいになかなか離れずにいるんだ。
もう二度と喧嘩なんかしたくない。
これ以上悲しい思いはさせたくないし、俺だってしたくない。
そんな折、翔くんがお風呂に入ってる最中に携帯が鳴った。
画面を見ると、カズからのLINE通知だった。
なんとなく周りを見渡して、ドキドキしながらメッセージを開く。
『智、明日遅番だよね？俺昼間路上ライブするから見に来てよ』
…なんで知ってるんだ？
と思ったけど、おそらく店長に聞いたのだろう。
明日かぁ…翔くんは普通に朝から塾のバイトだし、俺は16時のリハに間に合えばいいから行けなくはない。
しかし問題は、今カズに会ってしまっていいのかどうかだ。
事の根源はそこにあるわけで、翔くんと仲直りした手前安易に彼のもとへ行くのも危険な気がする。
もう、悲しませたくないって決めたから。
どうせ月曜日会えるし、『ごめん明日は朝から予定が』って返しておいた。
これでいい。
友達だけど、友達以上の感情を持たれたら、もう戻れないのだから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
京(プロフ) - 富喜田さん» そう言ってくださって嬉しいです！がんばります！！ (2020年7月12日 18時) (
レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
富喜田 - 何度もすいません。 すごく心に突き刺さりました。 大好きです！ (2020年7月10日 17時) (レス) id: cb1ca5340c (このIDを非表示/違反報告)
京(プロフ) - 富喜田さん» はい、ありがとうございます！！ (2020年7月10日 1時) (レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
富喜田 - 面白かったです！ これからの進展楽しみにしてます。 頑張ってください。 (2020年7月8日 6時) (レス) id: cb1ca5340c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：京
| 作成日時：2020年7月7日 17時
