４２ ページ42
俺が腕を取ると、翔くんはさっきみたいに、自転車を片手で押しながら肩を抱いて自分のほうへと引き寄せる。
一瞬にして体が彼の体温でいっぱいになる。
嬉しくて仕方なくて、雅紀の言葉を思い出しながら俺は言った。
「ねぇ、帰ったらさっきの続きしていいよ…？」
「ぶっ！！！」
すると急に肩から手を離し、口元を押さえた。
「翔くん？」
「いや、あまりにも大胆発言にびっくりして…」
「嫌だった…？」
「っ…嫌じゃないよ！！嫌なわけ、ないじゃん…そんな顔されてさ、」
「顔？」
よくわからないけど、さすがにいきすぎた発言は刺激が強すぎたらしい。
でもなんだか反応が面白くて、大学の前を通りすぎて消防署を曲がった坂のところで、腰に腕を回してみた。
そしたら翔くんは、やっぱり驚いた顔をした。
「なっ、何なの！？雅紀になんか言われた？」
と言いつつ、肩から腕にかけてさすってくれる。
俺はしがみつきながら、頭を預けた。
そして、ずっとずっと不安に思ってたことを口にした。
「翔くん。翔くんは、ずっと俺のこと見てくれる…？結婚もできない、外で手も繋げない、それ以外も、たくさん…それでも、一緒にいてくれる？」
前を向いてるから、彼がどんな表情をしているかわからない。
返事を待っている間、だんだんと鼻の奥が痛くなって、視界が歪んで、胸が苦しくなった。
いつのまにかアパートに着いていたみたいで、キュッと自転車を止める音がする。
彼の温もりは離れ、駐輪場に向かう背中を見つめる。
そのままエントランスに入り、階段を登る彼を追いかける。
ドアの鍵を開けるときも、まだこっちを見てくれない。
俺が登りきって玄関に入るのを待って、パタン、とドアが閉まった。
「っ…！」
閉まると同時に暗闇の中、抱き締められ、唇に柔らかい感触を覚えた。
どこにそんな力があったのか、彼はキスをしながら俺を抱えあげると、リビングを通って寝室まで連れてきた。
そのままベッドに押し倒されて、まだ顔の見えない状態で何度も唇を重ねる。
熱い吐息が、真っ暗な部屋で交わる。
「しょう、く…」
「さっきの続き、するんじゃないの…？」
「っ、でも、まだシャワー浴びてな…」
「関係ないよ。あなたが不安に思ってることなんて、俺にとってはどれもちっぽけで、考えるくらいなら少しでも多くキスしたいって、そんなふうに思うようなものだから」
「っ…、」
正直、暗闇の中でも関係なかった。
よくよく考えたら俺が見上げる彼はいつも、涙でぼやけてしまっているのだから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
京(プロフ) - 富喜田さん» そう言ってくださって嬉しいです！がんばります！！ (2020年7月12日 18時) (
レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
富喜田 - 何度もすいません。 すごく心に突き刺さりました。 大好きです！ (2020年7月10日 17時) (レス) id: cb1ca5340c (このIDを非表示/違反報告)
京(プロフ) - 富喜田さん» はい、ありがとうございます！！ (2020年7月10日 1時) (レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
富喜田 - 面白かったです！ これからの進展楽しみにしてます。 頑張ってください。 (2020年7月8日 6時) (レス) id: cb1ca5340c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：京
| 作成日時：2020年7月7日 17時
