１６ ページ16
手を繋ぎながら、まだ明るい空の下、二人で坂道を上る。
二人で学校から家に帰るなんて。
高校の頃当たり前にやっていたことが、今となっては新鮮に感じた。
俺は繋がれていない方の手の震えが止まらなくて、ずっと胸元で握り拳を作っている。
おまけに握られた手もきっと、汗で濡れてしまっているだろう。
「俺さ、大学入ってから初めての経験ばっかりで…周りが見えていなかったのかも」
翔くんがぽつっと話し始める。
「決して女の子に目移りしたわけでもなかったから、悪いことをしているって感覚はなかった。でもたぶんそれって、智くんが優しいから甘えてただけなんだよね」
家の前に着き、足を止める。
しかし、まだアパートに入ろうとはしない。
静かな夕方の住宅街。
高校のとき、名残惜しくて何度も家の前で別れようとしては何か話題を作っていた、そんな帰り道を思い出した。
「周りのやつらの話を聞いててさ、結構マメに連絡しないと怒ったり、束縛が強かったり、飲み会に女子がいると嫉妬したりするって…めんどくさそうに語ってたけど、俺としてはちょっと羨ましかったりして」
「そう、なの…？」
「だって、智くんはいつも優しいんだもん。いつも俺を優先してくれて、嫌だって絶対に言わないし。だから昨日、怒ったあなたを見てようやく傷付けてたんだってわかった」
本当にごめん。
そう言って、翔くんは俺を抱きしめた。
「俺は迷惑なんかじゃないから。智くんが好きで、誰よりも大切だから、智くんのワガママも聞きたいし、たくさん嫉妬して困らせてほしい」
「でも、めんどくさくて嫌われるんじゃないかって…それが心配で…」
「嫌いになんかなるわけないじゃん。あなたのためだったら世界中のひとの前で抱きしめて、キスできるよ」
「っ…、もう、あんなのやめてよね…！」
「どうして？かわいい人が目の前にいたら、いつだってしたくなるでしょ」
「、ばかっ…！」
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
なんでそんなこと平気で言えるんだよ。
その言葉ひとつひとつが、少しずつ絡まっていた糸をほどいていく。
すっと詰まっていたものが抜けていく。
いやってくらい甘くて、素直に気持ちを言葉にできる彼。
俺も、少しくらい素直になってもいいのかな、なんて思ったり。
でももう、その必要はないけどね。
だって、学校中のみんなが俺たちのことに気付いちゃったんだもん。
そして俺たちも、お互いの気持ちに気付けたんだから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
京(プロフ) - 富喜田さん» そう言ってくださって嬉しいです！がんばります！！ (2020年7月12日 18時) (
レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
富喜田 - 何度もすいません。 すごく心に突き刺さりました。 大好きです！ (2020年7月10日 17時) (レス) id: cb1ca5340c (このIDを非表示/違反報告)
京(プロフ) - 富喜田さん» はい、ありがとうございます！！ (2020年7月10日 1時) (レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
富喜田 - 面白かったです！ これからの進展楽しみにしてます。 頑張ってください。 (2020年7月8日 6時) (レス) id: cb1ca5340c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：京
| 作成日時：2020年7月7日 17時
