08.レットウカン。 ページ8
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いつもより時間をかけて身支度をした。
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秋が本格的に始まって、今日から制服のブレザーの下にカーディガンも着込んだ。
コツン、とローファーで駅のホームを蹴ったなら既に電車はやって来ていて
どうか会えますようにとギュッ…と目を瞑って、息を止めて。昨日と同じ車両に乗り込んだ。
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…ら。
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「…あ」
和也「お。」
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スーツ姿に、イヤホンをつけながら長い睫毛を伏せてブックカバーをつけた本を読んでいたその人は
私が連れてきた冷たい秋風に反応して、視線を上げた。
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和也「おはよう、Aちゃん」
「…おはようございます」
和也「なんか雰囲気違う？」
「へっ！？」
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吊革を片手で掴んで、右隣にいる二宮さんは本をカバンに片付けてイヤホンも外すと
私の顔を覗き込んで、そう言う。
その言葉に、へっ！？って我ながら素っ頓狂な声。
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…最悪だけど、嬉しい。
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「あ…ー、髪の毛。巻いたからじゃないですか？」
和也「あ、ホントだ。なるほどね」
「…ヘン、ですか」
和也「んーん」
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二宮さんの指先が、私の顔の脇にある髪の毛をくるんと遊んだ。
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和也「可愛いよ。」
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……この人は。
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「〜〜〜〜っ…、」
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この人はモテる人だと直感した。
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こんなにストレートに「可愛い」なんて人はそうそう言わない。しかもあんな甘い笑顔を振りまいて。
こんなこと、彼女持ちの彼氏さんでもやれない。きっとやれない。
なのにこの人はやっと昨日名前を知った私相手でもやってみせた。
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チクン。
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誰にでもこういうことをするんだろうな。
そして私みたいに勘違いしてしまう女の人が多いんだろうな。
会社にはきっと大人でナイスバディな受付嬢さんとかいるんだろうな。
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そう思ったら、自分が精一杯お洒落したって何にも敵わなくて
制服を着ている、という事実が恥ずかしくなった。
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和也「…照れてる？もしかして？」
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俯いてしまった私の様子を間違えて受け取った二宮さんはくすくす笑っていて
「やっぱり子供だなぁ」と呟いた。
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