知らないくせに・・・。 22 ページ5
自分でも、顔の温度が上昇しているのがよく分かる。
息苦しいくらい、熱い。
しばらく顔を埋めていると、フン、と頭上で笑う声が聞こえた。
・・・呆れられたかな・・。
「・・全く、バカはどっちだ?大賢者。」
「・・・・何が・・・」
「俺がいつ、『初代が』と言った?」
「・・・・?」
どういう意味なのだろうか。
初代だけじゃないというなら、何だって言うんだ?
「俺は双黒が良いと言ったんだ。双黒は初代だけじゃないだろう。」
「・・・」
「お前も、ちゃんと含まれているんだぞ。」
「・・ぁっ・・・・」
情けないくらい弱々しい声が出る。
知らなかったのは、僕のほうだった。
眞王はちゃんと、考えていてくれた。
・・・本当に、僕のほうがバカだ・・
「そんな情けない顔をするな。いつもの大賢者は何処へ行った?」
「・・っ余計なお世話ッ・・・」
「世話焼きだったのはお前のほうだろう」
「・・君がしっかり・・っしてくれないから・・」
「そうだな。」
「・・なんで素直に認めるんだし・・・ッ・・・」
「お前を困らせて、そんな顔をさせるのは嫌になってな。」
「・・ッ・・・ばかぁ・・っ・・・」
「あぁ、バカでいい。」
「だから、もう泣くな。」
どうして君は、こういうときだけ僕の気持ちをすぐに読み取るんだい?
そんなときばかり、変に優しくしないでくれ。
調子が狂って、妙にたくさん涙が出てくるじゃないか。
緩んだ涙腺を元に戻すのだって、簡単な事じゃないんだから・・・。
雨音と雷鳴だけが響く暗い洞窟の中、
どれだけの涙が零れ落ちたか分からない。
だけどその分、
今まで知らなかった眞王の優しさを知った。
彼の存在の心強さを感じた。
『君と生きられたから、初代は怖くなかったんだ』って思えた。
頬を撫でる自分の涙を、眞王は何度も優しく親指で拭った。
その姿と不釣合いな暗くて不気味な洞窟の中で、
汚れる事が嫌いな彼が真っ黒になりながら
渋谷に似た明るい笑みを、僕に向けていたんだ。
その笑顔が眩しくて、温かくて、
僕は少々口元を上げながら、細めた瞼の間から涙を流した。
「・・ッ・・ふふっ・・・ヒック・・・」
「・・何を笑っている?」
「・・なんでもないよ・・」
「?」
「・・ねぇ、眞王?」
「何だ。」
僕は伝えたい。
・
「ありがとう」
・
とびきり笑顔と共に。
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作者名:響 | 作成日時:2012年5月22日 22時