Seven ページ8
一般細胞がタオルを取って戻ってきた時には、記憶細胞は何事もなかったように振る舞っていた｡
あくまで振る舞っているだけで、記憶細胞の頭の中では滝行が行われている異様な状態であった｡
一般細胞はというと、自分だけヒスタミンの難を逃れたことに罪悪感を感じているのかオロオロしていた｡
「大丈夫ですか、タオルもう1枚持ってきましょうか?体、冷えちゃいましたよね、何か温かい飲み物でも持ってきます」
「いや、大丈夫｡これくらい平気さ｡俺、ヒスタミンに溺れかけたことあるし」
「そんなことが!?詳しく聞きたいです! 」
記憶細胞はその出来事について一般細胞に話した｡
時折痛い感じの発言もあり一般細胞が何度か聞き返すこともあったが、それを除けば順調に話は進んでいった｡
話し終わる頃には、記憶細胞の服もほとんど乾いていた｡
「それは災難でしたね」
けらけらと笑いながら一般細胞はそう言う｡
「おい、笑い事じゃないんだぞ」
「すみません、私にもありうる話ですもんね｡でも面白くて」
まだ笑い続ける一般細胞に釣られて、いつの間にか記憶細胞も笑っていた｡
「そろそろ仕事しなきゃ」
一般細胞が部屋の方を振り返り、少し残念そうな顔をする｡
「記憶細胞さんと話すの楽しくて、いつも時間を忘れちゃいます」
「俺もだよ」
じゃあ、と言って記憶細胞が自分の仕事場に戻ろうとした｡
「あ、記憶細胞さん、待って」
一般細胞の呼び止める声に記憶細胞は振り向いた｡
「なんだ? 」
「あの、これからも私とこうやってお話してくれますか」
何故一般細胞がそんなことを尋ねるのか、記憶細胞には見当もつかない｡
「私、周りの一般細胞と違って女だし、記憶細胞さんは私のことを男だって思ってたみたいですし」
「それは悪かった」
「いいえ、記憶細胞さんが謝ることなんてないんです!ただ……女の私とでも、またお話してくれるのかなって｡ちょっとだけ、不安で」
だんだん一般細胞の声は小さくなっていく｡それに伴い、視線も地面へ下がった｡
一般細胞は今回の出来事で記憶細胞が気まずくなって、もう会いにきてくれなくなってしまうのを恐れていた｡
「心配すんな」
ポン、と頭に乗った温かさに顔を上げると、記憶細胞が一般細胞をしっかりと見ていた｡
「男だろうと女だろうと、また来るよ」
今度こそ記憶細胞は自分の仕事場へと帰っていった｡
一般細胞は先程まで記憶細胞の手の平が乗っていた部分に無意識に触れていた｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
