Six ページ7
記憶細胞は赤血球の言葉を頭の中でこだましていた｡
本当に嬢ちゃんには手がかかりますよ｡
嬢ちゃんには手が｡
嬢ちゃんには……｡
嬢ちゃん!?
記憶細胞が衝撃を受けている間に、酸素の受け取りが完了し、赤血球は肺の方向へと駆けていってしまった｡
一般細胞は記憶細胞の目の前で軽く手を振り、意識があるか確認した｡
「嬢、ちゃん? 」
「ああ、まあ、一応女なんで」
ばつが悪そうに一般細胞は自分の頬をかく｡
容易に想像できるだろうが、記憶細胞は一般細胞のことを男性だと誤認していた｡
「そうだったのか……」
「わざと男っぽくしてるんですけどね｡でもそこまで本気で間違えられるのも、ちょっと複雑です」
あはは、と一般細胞の乾いた笑いが空しく響いた｡
記憶細胞が間違えたのも、無理はないのだ｡
一般細胞は中性的な顔立ちをしているし、髪型はショートカット｡声だってどっちともとれる高さ｡ぱっと見で勘違いする者がいない訳ではない｡記憶細胞以外は皆、すぐに女と認識し直したが｡
記憶細胞は今までの記憶を遡って一般細胞の言動を必死に思い出していた｡
一般細胞の一人称はずっと“私”だった｡
それに男性特有の喉仏が一般細胞には存在しない｡
決定的な証拠として……｡
「あ、やばい」
そう言って一般細胞は部屋の中へと一旦避難した｡
その直後に空から大量の液体が降ってきた｡
マスト細胞がヒスタミンを放出したのだ｡
アナウンスで流れたヒスタミン警報から情報を得た一般細胞は即座に反応して事なきを得た｡
しかし記憶細胞はその場に突っ立っていたため、まともにヒスタミンを浴びてしまった｡
「ちょっ、やだ、記憶細胞さん!びしょ濡れじゃないですか!今、タオル持ってきますから! 」
バタバタと部屋にタオルを取りに行った一般細胞を視線で追うことすらできず、記憶細胞はしゃがみ込む｡
記憶細胞はしっかりと思い出していたのだ｡
初対面の時、一般細胞が自分のシャツを引っ張って見せてくれた時のことを｡
あの時、かすかにではあったが、2つの膨らみが一般細胞にはあった｡
シャツの上から、記憶細胞はその存在を見ていたのだ｡
ポタポタと髪からはヒスタミンが落ちていく｡
だが今の記憶細胞にはそのヒスタミンすらありがたく感じてしまう程に動揺していた｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
