Twenty-seven ページ29
記憶細胞は前に出ないAに若干疑問を抱いたが、B細胞もマスト細胞も気にかけた様子はなかったため何も言わなかった｡
「A、そろそろ行こうか」
「え?どこへ? 」
「どこって……散歩の続きだが」
「あ……ああ、そうですよね!散歩してたんですもんね! 」
記憶細胞はAの笑い方にとっかかりを覚えた｡確かにAは笑っているけれど、慌てているようにも何かを隠しているようにも見える｡
訳を聞こうと口を開きかけるが、またもや遮られることとなった｡
「Aさん｡これからも記憶さんのこと、よろしくお願いします」
B細胞が帽子を取って軽く頭を下げたのだ｡
Aも記憶細胞もB細胞の突然の行動に驚きを隠せない｡
「記憶さんは変な人ですけど、悪い人じゃないんで! 」
「いや、B細胞くん、もっと表現が」
「頭を上げてください!これからも記憶さんとは仲良くしたいですし、寧ろこっちこそよろしくお願いしますって感じですから! 」
Aまで言葉をかぶせてくる……などと思った記憶細胞であった｡しかしAの言葉に嬉しくなった｡
今後も仲良くしてくれるのか｡
もうセリフを遮られたことなどちっぽけなことに思えて、手放しで喜んだ方がずっといい気がした｡
「ねえ、Aって呼んでいいかしら? 」
先ほどまでAの思考を占領していた張本人、マスト細胞に尋ねられ、少し狼狽えたがコクリと頷く｡
「よかった｡なんかあったら言ってよね｡A、無理ばっかりしてそうだから｣
「え……いいんですか? 」
「もう友達でしょ｣
友達｡記憶さん以外の｡
その響きにAの心はぽっと温かくなった｡
しかし、ぐじゅぐじゅとした黒い何かがAを確かに蝕んでいた｡
私はこんなにいい人になんて失礼なことを考えていたんだろう｡
B細胞とマスト細胞と別れてからも、Aの心は晴れきることなく曇っていた｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
