Sixteen ページ17
「記憶さんってば相変わらずですね」
「そんなに笑うことないだろ! 」
Aの過去を知った後、記憶細胞と気まずくなってしまうのではないか、と身構えていた｡
だが何事もなかったかのように、いつも通りの幸せのひとときが繰り広げられていた｡
記憶細胞はAの元気そうな様子にほっとしていた｡
AはAで、記憶細胞が今まで通りに接してくれることに感謝していた｡
記憶細胞は最近、この世界に起こったことを事細かにAに教えた｡
コロコロと記憶細胞が表情を変える度に、クスクスAが笑う｡
記憶細胞の話が一段落すると、何気ないようにAが言った｡
「この世界は面白いことであふれてるんですねえ」
Aは深い意味で言った訳じゃなかった｡でも記憶細胞にはその一言を軽々しく扱っていいものとは思えなかった｡
そして恐らくAは誰にも聞かせるつもりはなかったのだろう｡もしかしたら彼女自身無意識の内だったのかもしれない、拾えない程小さな声をこぼした｡
しかし記憶細胞はAの呟きを聞き逃さなかった｡
「私も見てみたいな」
やっぱりAは何も考えずに言ったらしい｡漫画か何かであればキョトンという擬音がつきそうな顔をしていた｡
言うなら今しかない｡
記憶細胞はそう感じた｡
実は記憶細胞は前々からAを誘いたいと考えていたことがあった｡その気持ちはAの話を聞いても怯むことはなく、一層強くなっていたのである｡
「あのさ、もしAがよかったらなんだけど」
記憶細胞は簡単なはずのその後の言葉をなかなか言えなかった｡
嫌だったらいい、断ってくれてかまわない｡
そんな、思ってもない言葉ばかりが口からあふれて｡
「記憶さん? 」
しまいにはAに心配される始末だ｡
ええい、言うだけならタダだ!
「俺と一緒に散歩に行かないか」
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
