来世はたぶん出会わない (ページ26)

今日:59 hit、昨日:10 hit、合計:38,440 hit

26 ページ26

「Aさん、今朝登校するの結構遅かったでしょ？それまでずっとそこに座ってたよ」
「…何しに来たんだろ」
「本当に座って、窓の外見てるだけだったみたい。予鈴が鳴ってから帰っちゃったけど」

…変な奴。
用があるならチャットで言えばいいのに。ていうか。

「さっき会ったのに…要件伝えないの変」
「顔見に来ただけ…とか？」
「えっ！あいつが？」

そんなキャラだっけ。
それに顔が見たくなるような間柄でもないじゃん。

考えたら負けなんだった。やめよう。

「何か嫌味でも言いに来たんだと思う。次このクラスでイドンヒョクを見かけたら追い払っていいからね、委員長」
「Aさんネガティブすぎるよー、普通はもっと、自分に気があるのかとか考えちゃうじゃん」
「他の人なら考えるけどイドンヒョクに限ってそれは無いもん」

私の事金づるとしか見てないのよ。
でもイドンヒョクがもしそういう人、だったら困る。

私の中のイメージが壊れる。
あんたって常に誰かと喋ってて、1人の時はスマホに届くメッセージの返信に追われて、特定の誰かに執着しない。
はずなのに、どうしてどこにでもいる1人を、ぼーっとずーっと待ったりできるの。

イドンヒョクのことが分からなくなる。
そんな事が起きたら困るのに。

窓際の自分の席に座った。
窓の外を見たら、サッカー場がよく見えた。

ゴールに向かって一直線に走る人が、イドンヒョクだってすぐに分かった。

蹴り飛ばしたボールは盛大にゴール枠を外れて、
それなのに楽しそうに走り回ってる。
周りのみんなが体をくねらせて笑う。笑い声がここまで聞こえてくるくらい。

いつも集団の中心に居る人なのに、
2人きりの時、それか彼を近くで見ている時、自分が観客って感じはまるで無い。
言動はあんな感じなのに、まるでずっと自分の味方でいてくれてるような気さえする。

A。

私の名前を呼んでる。

こんなとこに立ってる私を見つけて。

サッカー選手のまねをして、おどけて、
私の表情なんて遠くて見えないくせに、
私の口角が少しだけ上がっちゃった時に、
それに応えるみたいに大きな口を開けて、元気に笑った。

太陽みたいだ。
もうじき太陽は沈むのに。

あなたと一緒に居る時は、なんで、ばっかり。
あなたの事が全く分からない。
あなたの背景に映る沈みかけた夕日が、こんなに美しくて、安心するのはどうしてなの。

後戻りできるのかな。
窓際を離れて距離を取った。
考えすぎだよ、私。
考えさせないで、もう。