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うん、と先生が頷いてくれてる。
「つらくて悲しい環境で、主人公がなんとか生き抜く話ですよね。原作は、『生きる』。えっとー…人間の強さを、生き残ること、の部分に焦点を当てながら描く作品じゃないかなって。でもこの劇は違います。過酷な環境の中で、生き続けること自体に焦点を当ててる」
「わかる？」って私の顔を見るチョンロ。
思わず小さく頷いた。
「人間の『生き方』を力強く描くなら、原作通りの世界観を再現しようとすればいいと思って」
そう言った。うんうんと隣でチョンロが頷いた。
そのまま私にマイクを渡すから、何となく受け取った。
「えっと…でもこの舞台は…ユーモアを多く含めたり、幸不幸ばかりをわざとらしく強調しない。あくまでも、生き残ることではなく生き続けることを語っているのは、なぜですか」
先生。
小さくその目を見上げた。
真っ黒の中に、今も好奇心いっぱいの目玉。
「生き続けることと、生き残ることの微妙な境界線は、どこにありますか？…」
頭に浮かんだままをそのまま喋った。
先生は私たちより1列前のシートに座って、うん、と頷いてる。
「今も世界のどこかでは、その微妙な境界線を行き来している人がいる」
先生はそう言った。
光でいっぱいの瞳はロンジュンに似ていた。
「中国もこの時代はそうだった。圧倒的多数の人間が社会の底辺を生きている。境界線は、微妙だが、向かう方向は真逆」
「…絶望と、希望ですか」
呟いた。
先生がこっちにさっと振り返る。
「『生き続ける』こととは、自分の人生を実感することだと思う」
昨日のロンジュンの目を思い出す。
「反対に、『生き残る』こととは、他人が自分の人生を傍観することだと思う。自分の人生の物語に、他人の視点は必要ない。舞台では主人公の感情に最も重きを置いた。1人称視点をイメージしてね。必要なのは彼が『生きている』という実感を持つことだ」
先生は自信たっぷりに堂々と語った。
確かに劇にはナレーションは無かった。
「誰かが彼の人生を語れば、彼は人々の記憶の中で、ただ生き残っただけの人間となってしまう」
その言葉はタイプライターみたいに、脳に直接かたかたと打ち込まれる。
A、って先生が私の目を見た。
「君はどう思う。人間の本質とは、生きる目的とは」
「…目的」
「絶望することか、希望することか。つらくて悲しい環境を生き抜いた人間が珍しくて、素晴らしいと思うか。それとも全ての人間が持ちうる本質だと思うか」
手のひらから力が抜ける。
マイクを落としそうになって、ぐっと握り直した。
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作者名：ユン | 作成日時：2024年3月22日 7時
