◇8◇ ページ8
「可愛い所あるよな、ヘチャン」
ジェヒョンは扉を片腕で抑えながら、リビングに入っていく背中を見送った。
「ロンジュンは聞き分けがいいし」
「この後部屋で二人の大喧嘩始まるよ。やかましくなる」
「愛されてるね。家族を愛するために双子に生まれたみたい」
ジェヒョンは微笑んでる。
「どっちかが深入りして来たらどっちかが癒してくれる」
「いるならあげるけど。二人セット」
「あの二人が愛するきょうだいはお前だけだよ。要らない」
適当な言い訳を言ってるのか、それとも本当に思ってるのか分からない。
「住む世界が違うの」
片足の重心をもう片足に乗せた。
「…ん？」
「私は女で、あの子たちは男の子だから。私と居るのは良くないって親が判断した」
「だからつらく当たるの？」
「私があの子たちの関心に首を突っ込む権利も無いの」
ジェヒョンが腰に手を当てて、唇を少し尖らせる。
背後の日が落ちていく。
「あの子たち、雷がダメって話した？」
ジェヒョンは右斜め上をふと見た。
「したかも」
「小さい頃、海辺に住んでたんだけど。ある日夕方に家を抜け出して、歩いて海に行ったの。まだ道も分からない小さい弟達が私の後をつけてきた」
「うん」
「途中で雲行きが怪しくなって、浜辺に着いた頃には雨が降り出した。空は暗くなって、遠くの空では雷が鳴りだして」
「…想像するだけで怖いな」
「うん。怖くなって帰ろうとしたんだけど、雷に驚いた弟達が腰を抜かして、浜辺に座り込んで泣き出して」
ジェヒョンが腕を組んで頷く。
「ぐずり出したのに腕を引っ張りもしないで、先に逃げ出したの。私だって怖かったから。家に逃げ帰って、親が弟を探しに行って、それから」
「…無事だった？」
「それは、もちろん。私の名前をずっと叫んでた。風邪をひく所だったし、父親がすごく怒って、その日を境に弟達を私から遠ざけるようになったの。別の学校に通わせて、留学させて」
数日前の嵐に似た日だった。
「子供なんだから、普通だよ、そんな出来事…」
「それでも私にとってはトラウマだし、元々私はそういうたちなんだと思う。姉なのは形だけで、姉らしいことは1つもしてやれない。ロンジュンがお化け屋敷に入った時だって…」
そこまで言って、やめた。話が長くなる。
「…とにかく、あの子たちの姉で居れるほど、私は強くないし見栄っ張りなの。あの子たちを見てると…自分の情けない部分を思い知るみたい。私には、意地悪な友達と絶交する勇気すらない。でもあの子は年上にだって塩を撒ける」
少し笑った。
ジェヒョンは真剣な顔で聞いていた。
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作者名：ユン | 作成日時：2022年10月19日 8時
