◆3◆ ページ18
大型車にスーツケース数個と、浮き輪と、ビーチサンダル。
車内には陽気な音楽と、去年の潮の香りが舞っている。
「ヌナ、早くおいでよ、みんな乗ってるよ」
窓からヘチャンが元気に声を張り上げた。
家の方から、ロンジュンに手を引かれたAが、目を擦りながら走って来る。
二人が韓国に行ってしまう前に、みんなで海で遊ぼうって話になった。
ジャニが車をレンタルしてくれて、ジェヒョンと交代しながら二時間の往路。最近これまでの寝不足を取り返すかのように、ずっと寝てるAは、今日も出発から寝っぱなしだったけど。
みんな窓から身を乗り出して、音楽に合わせて歌った。
しばらく行くと水平線が見えてくる。大袈裟な叫び声が重なった。
でも、夏の太陽を映す海は、本当に綺麗だった。
「A」
足元をすくう冷たい塩水。
ヘチャンやジェヒョン達の声を聴きながら、砂浜の方を見る。
さっきまでビーチパラソルの影で寝ていたAが、気付けば寄る波に足を浸らせていた。
俺の顔を見て、手を振ってる。
そのまま一歩、二歩進むと、膝あたりまで水に浸かった。
浅瀬に向かって水をかきわける。
Aの体を抱き上げて、パラソルの下まで運んだ。
「あ、マーク、今気持ちよかったのに」
「忘れたのA、危ないから水にはもう近付かないで」
「みんな楽しそうなのに」
口を尖らせてるAを座らせる。
「もう溺れたりしないよ」
それを見下ろしながら、首を横に振った。
「ダメなものはダメ」
「深いところまで行かないよ」
「ダメだよ。ご両親にも言われてる」
「じゃあなんで連れてきたの」
拗ねてるみたい。
少し笑って、その頭を撫でる。
「こうやって、俺がAと一緒に海を眺めたいからだよ」
その隣によっこいしょって座った。
果てしない水平線の向こう。
隣のAの目を見た。何かを追いかけてる。
「へチャニとロンジュニを見てるの？」
「まだ子どもだなぁって思って」
叫び声と一緒に、水面を跳ねるボールが見える。
ジョンウが波に足をすくわれてすっ転んで、みんなが楽しそうに笑ってる。
テンとヤンヤンとロンジュンは、遠くでサーフボードにひっ掴まってる所。
「寂しくなるね、もう行っちゃうなんて」
呟いた。
「マークは？」
「ん？」
「いつ韓国に帰るの？」
「来たばっかりなのに、帰国の話するの？」
「もし行かないでって言ったら、いつまでも居てくれるのかと思って」
少しだけ沈黙が過ぎた。
「A、素直に言えばヘチャン達、すごく喜ぶと思う」
「…そういうんじゃなくて」
不満そうにため息ついてる。
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作者名：ユン | 作成日時：2022年10月19日 8時
