◇2◇ ページ2
「愛して欲しかった」
マークが私の体から手を離して、呟いた。
「Aがまだ変わらず俺を愛してると思った。だからこっちに戻ってきた」
「…何？急に…私があなたを愛してないって言うの？」
「愛してたら俺の気持ちが分かるはずだよ」
枯れたマークの声が消えかかる。
「想像できない？俺が濁流に飲み込まれて、いくら名前を呼んでも、水をかき分けても、返事が帰って来ない時の気持ちが」
「…マーク、変な話をするのはやめて」
「川辺から冷たくなった君が引き上げられた時、息をしてなかった時、病室で毎晩高熱にうなされてた時、俺がどういう思いで君の回復を願ったか分からない？どれほど孤独だったか」
マークは小さく唇を噛んで、それから、そっと息を吸った。
「…最近思うよ。Aが俺の気持ちを理解してくれてたら、こんな危ない目に遭おうとなんてしない」
「…何が言いたいの？」
「目覚めた時俺の事を思い出してくれた？俺は、君は俺達のことなんか、どうでもいいんじゃないかって」
肩を落とした。
「マーク、変だよ。こんな事で腹を立てるなんて…水の中で大変な思いをしたから根に持ってる？」
「分かってない」
マークが首を横に振る。
「俺たちは同じ気持ちになれないんだろうな。だから分からない。 今も、これまでも、最近は君をすごく遠くに感じる」
拳を握り締めた。
「別に死ななくったって、私たちはいつか離れ離れになるのに？」
太平洋の距離を乗り越えた私たちなら、
何があってもこの友情を保てると思っていた。
でも、時間のなかの距離は、離れていくばかり。
「…ごめん、忘れて」
こんなことを言うつもりは無かった。
「その…混乱してたし、疲れてて。一人になりたかったの」
本当は分かってる。
頭の中ではちゃんと。
ただ、自分の中で消化しきるには、時間が足りない。
余裕も。まだお互いの変化にもついていけてないのに。
駐車場の中をぐるりと大きく回った黒塗りの車が、私のすぐ近くで停まった。
運転手が外に出て来て、私を迎えに来たって言う。
「…私を？誰が？」
「お父様が」
ため息が出た。
多分父親はかなり怒ってる。この車に乗ったら最後だ。
でも乗らない選択肢もない。
「ごめん、行かなきゃ」
マークに声をかけた。マークは何も言わない。
後部座席に乗り込んで、発進した直後、慌ててまた停めてもらった。
道端に落ちた花を拾い上げる。
「マーク、貰うね」
マークに笑いかけたけど、
マークは私からそっと目を逸らして、そのまま行ってしまった。
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作者名：ユン | 作成日時：2022年10月19日 8時
