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「他に好きな人が出来たから別れて欲しいの」
その目を見ることが出来なくて、机に転がったネギを見つめながら言った。
悠太くんが私の手を離す。
「へえ。相手は？どこの誰？」
「…言う義務無いでしょ」
「いつから好き？」
「言っとくけどこれ本当だからね」
「じゃあ俺の目を見て」
そして次は、腕を掴まれた。
悠太くんが私の顔を覗き込む。
逃げようにも、逃げられない距離。
「…悠太くんと……別れ……」
追い詰めてくる大きな2つの瞳。
後ずさりする。すぐ後ろは壁。
「…たい」
「それで？」
「…他に…」
ごくりと唾を飲む。
壁に背中をピッタリくっつけた。悠太くんの顔が近付いてくる。
「…好きな人が」
綺麗なピンクの唇が。
優しい香水の匂いが、超至近距離。
ぎゅっと目を瞑った。
その2秒後、くすって鼻で笑う声。
目を開いた瞬間、おでこの辺りで、ちゅって音が鳴った。
悠太くんは私から離れると、
あははって元気に笑いながら、箸を持ち直して、唐揚げを口に運んでる。
「諦めな、A」
将太郎がため息混じりに言った。
…圧倒的な敗北。
悠太くんは何食わぬ顔でビールを飲みながら、スマホのメールを確認してる。
私は1人個室の隅で落ち込んでる。
「…悠太くん、どうしたら私と別れてくれるの…」
「俺に嘘をつこうなんて500億年早いね」
「…意地悪」
「Aは俺の事好きだもん」
はあーって長いため息が出た。
灰皿で転がった1本のタバコも無念そう。
「どうしてAが悠太くんと別れたいと？」
将太郎もそう一緒に唐揚げをつつく。
「実家に連れてった時かなり気落ちしてた。あと、大学の先輩にちょっかいかけられたみたい」
「そこまでお見通しなんだ…」
「悠太くん、私本気で落ち込んだし、悩んだんだよ」
ヤケになって正直に言い放つ。
「実家のことは俺の問題だし、先輩の連絡先は消したけど…悪いと思ってる、どうにかするよ。約束する」
「…まあ悠太くんのせいじゃないけどさ…」
いやチョロ、って将太郎が肩を落とす。
「一生私と別れてくれないつもり？」
「うん」
ケロッと返事が返ってくる。
「悠太くん、Aのどこが好きなの？」
将太郎が尋ねる。
うーん、って口をもぐもぐさせながら、左斜め上を見る悠太くん。
「やっぱしょーもない演技するほど俺に夢中なとこかな？」
「自惚れだよ」
腹いせに小さく呟いた。悠太くんがこっちを見る。
「キスしてほしかったやろ」
「別に」
しょうがないなーってにやにやしながら近寄ってくる。
ぎゃーって叫んだ。将太郎が楽しそうに笑った。
＊
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作者名：ユン | 作成日時：2023年3月11日 21時
