君の五臓六腑まで愛してる (ページ9)

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「お…思うんだけどさ」

バッグの中を探って、こんなこともあろうかと持ってきたタバコとライターを拾い上げる。

「悠太くんってあんまり有給取ってくれないよね」
「ん？」
「友達の彼氏はみんな、有給取って旅行連れて行ってくれるって」

不慣れにタバコの先に火をつけることに成功。

「悠太くんはいつも出張で忙しい忙しいって言って、この間の誕生日も一緒に居れなかったし。それに」

咳き込むのが怖くて、そっと煙を吸っては、小さく吐き出す。

「友だちはパリでヴィトンの鞄買ってもらってたし…」

ちらっと隣の悠太くんを見ると、
私の目を見て優しく微笑んで、私の指からタバコをそっと取り上げた。

「喘息あるでしょ。我慢しよ、ね」

灰皿にくくっと押し付けてる。

「…昔の話でしょ」
「再発したら大変だもん」
「話をそらさないでよ。そのー…鞄とか、靴とか…そう」

気付けば緊張で背が伸びてた。はっとまた猫背に戻す。

悠太くんは頬杖をついて、うんって頷く。

「寂しい思いさせてたんやね、じゃあ来月こそ有給取るから、旅行行こう」
「…ほんとに？」
「何でも買ってあげる。そうしたら許してくれる？」

「…車も欲しいし美味しい食べ物も食べたい」
「うん、いいよ」
「…おっきいクルーズ乗って世界一周したい…」

うんうんって頷いてる。

悠太くんは、机に置いた私の手をそっと握った。

「Aを幸せにできるなら、俺はどんな宗教にも入るし、Aがレズビアンでも愛するよ」

通説、彼氏と居る時には、
感じるはずのない寒気が、今。

はっと、思わず将太郎の方見た。
将太郎も目を丸くしてる。
悠太くんに目を戻すと、悠太くんはニコニコ笑ってた。
でも掴んだ私の手は、戻そうとしても断固として離してくれない。

掴む力に力が篭ってるような。あっ、って痛みで声が出る。

おかしいと思ってた。
悠太くんは普段まったく天然じゃないのに。

「あとは？ここで俺にどんな話聞かせてくれる？」

ニコニコ笑顔が恐ろしい。

この男、既に全部お見通し。

「…私ってさ…実を言うと料理も掃除も嫌いだし…本当に好きな食べ物はユッケじゃなくカップラーメンだし…」
「うんうん、そうなんや。じゃあ今度死ぬほど食べさせてあげる」
「…悠太くんと付き合う前は彼女いたし、今つけてるネックレスは『先生』から50万で譲ってもらったものだし」

「Aの諦め悪いとこ、俺好きだよ」

握り締められた手が砕けそう。
痛い痛い、って両手で逃れようとする。

「じゃあ！はっきり言うけど」

開き直って背筋を伸ばす。声を張った。