・ ページ8
悠太くんは上着を脱ぎながら、私の隣によっこいしょって座った。
「A待った？もっと飲んでても良かったのに」
「全然？…話が弾んでただけだよ」
「あ、ほんと？何話してたん2人で」
悠太くんがテーブルに肘をついて、私と将太郎の顔を優しく見た。
将太郎が気まずそうに目を細める。
「悠太くん、今幸せ？」
意を決して、そう切り出した。
思わず吹き出しそうになったのか、将太郎がそっと唇を巻き込んで、目を逸らしながら耐えている。
「えっ？」
「この閉塞した現代社会で、自分の能力が十分発揮できてないとか……人に囲まれていても時に孤独を感じるとか…」
言葉を探す。
将太郎笑い事じゃないってば。
「心の支えが足りないと思わない？」
「んー、よく分かんないけど、俺は今十分幸せかなー」
「…今以上に幸せになれる方法と場所を私が見つけたんだけど…」
「Aと将太郎が近くに居てくれるから幸せやと思う。2人が居なくなったら寂しくて死んでしまうかもやけど」
「…」
そうだった。この男、こういうのをシラフでさらっと言えるタイプ。
ビールとユッケが運ばれてきて、ありがとうございまーすってにこにこする悠太くん。
悠太くんおれもだよ、って将太郎が目を輝かせて、既にメロメロになってる。ちょっと。
「ほら、A、ユッケ好きじゃん。食べな」
美味しそうなユッケを私の前に置いて、箸まで持たせてくれる。
はっと背中を丸めて、箸を2本握りしめる。
器の中を箸で無茶苦茶にかき混ぜたら、ユッケがひとつ、ぽーんって器の外に飛んでいく。
机の中央に乗った。あ、って小さく反応する将太郎。
卵黄の乗ったユッケをかき集めて口に入れる。噛みながら、唇からネギやのりがほろほろ落ちてくる。
「あー、A、こぼれてるで」
見てた悠太くんが手拭きの封を破いて、私の顎の辺りを拭いた。
口の中をパンパンにしてる私を、じっと近くで見て、笑った。
「お腹減ってんの？赤ちゃんみたい、A」
きらきら。
アイドルスマイルからさっと目をそらす。
箸を器の中に放り投げると、ネギが飛んで行った。
「A、ゆっくり食べても食べ物は逃げていかないからね」
悠太くんが私の箸を持って、
ユッケをひとつつまむと、私の口元まで持ってきた。
「食べさせたげる。あーんして」
「…」
これはまずい。
「おいしくないから、いらない」
慌てて、そうそっぽを向いた。
手元の生ビールを一口飲んで、喉に力を込めると、
くえ、って小さな音が出た。
可愛い飲み物頼んでなくてよかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 101人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユン | 作成日時：2023年3月11日 21時
