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頬がほんのり赤い将太郎は、少し腕を組んでから、
「大変だよね、それは。わかるよ」
って呟いた。
将太郎ならとやかく言わず、私の意見に寄り添ってくれる気がしていた。
「でも、昔から見てきた俺が言わせてもらうけど」
「…」
「悠太くんと別れるのは、そう簡単なことじゃないと思う」
思わず口を噤む。
個室の両脇がわっと騒がしくなり始めた。
「それは…何となく分かってたから、こうして先に将太郎に相談しようと思ってたの」
「悠太くんと別れる理由…ならぬ口実を考えるってこと？多分、まともな理由じゃ納得しないよ」
くっ、って肩を落としかける。
まだ早い。
「方法は本当に何でもいい。悠太くんが私と別れたいと思ってくれれば、何でも」
将太郎は飲みかけの生ビールのグラスの縁を指でなぞって、
じゃあ、って口を開いた。
「よくある方法でいく？」
「なに？」
「胡散臭い宗教に加入した系。怪しげな団体の名前を適当に挙げて、悠太くんを勧誘するとか。数珠とか高値で買わせるの」
「…上手くいくかな？」
「バレるかどうかは演技力によるよね。まあそこは俺も協力するとして……後は、ありきたりだけど、同性愛者ってカミングアウトするとか？」
「…今更？」
「言ってみる価値はあるかも。あとはね」
将太郎は片手でスマホの画面をスクロールしてる。
「喫煙、猫背、ゲップ、口を開けて物を噛む、箸の使い方が変」
「…もしかしてそれは」
「男の人に嫌われる女の子の仕草だって。それと、他の彼氏と比べる、浪費癖がある、家事ができなさすぎる、これは嫌われる彼女の特徴。ネット情報だけど」
「なんか…意外と出来そうじゃない？」
「じゃあ頑張ってみて」
「将太郎は？自分の彼女に何されたら、別れようと思う？」
「俺？」
顎に指を置いて、のんびり考えてから、
「浮気は、ちょっと考えちゃうかもな」
って小さく言った。
「確かに手っ取り早いね、それは」
「でもそれは追求された時面倒だと思うよ。既成事実が無いと」
「じゃあ最終手段にしよう」
その時、個室の扉がカラカラ音を立てて開いた。
「お、将太郎、久しぶりじゃん」
大きな、キラキラした瞳を細めて、
爽やかに片手をさっと上げて、挨拶する悠太くん。
将太郎が振り返って、にこにこ笑う。
「悠太くん〜待ってたよ」
「ごめん待たせて。これでも急いだんだけどさ…あ、すみません、生ひとつ追加で、あ、ユッケもひとつ」
おねがいしまーす、って、悠太くんが店員さんに笑いかけた。
魔性の笑顔だ。相変わらず。
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作者名：ユン | 作成日時：2023年3月11日 21時
