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数日後、予定より早く退院することになって、自分で荷物をまとめて病室を出た。
病院からの帰り道では、遅咲きの桜が満開。
小川の上で立ち止まると、流れの上に桜の花びらが漂っている。
川一面ピンク色。手すりに両手でつかまって、体重を預ける。
ふと顔を上げると、川辺の桜がまた風に揺られて、
はらはらとその花びらが、落ちてくるところだった。
背伸びして、手も伸ばした。
届くように。
「A」
はっと声に振り返ったら、バランスを崩して、一瞬橋の向こうに体重がもってかれそうに。
慌てて地面に足をつけようとするのと同時、
駆けてきたマークが、私の体を両腕でつかまえた。
「何してるの」
ぐっと抱き寄せて、その胸の中。
顔を上げると、マークのまるい両目。
「…マークこそ」
「落ちる所だったよ」
「落ちないよ」
「落ちる。入院じゃ済まない」
先輩たちといる時はもっと子供っぽく振る舞うのに、最近はめっきり、私の前ではお兄さんぶるようになった気がする。
マークの腕の中から離れた。
「今お見舞いに行くところだったのに…」
「もう退院したの。早まって」
「熱は？」
自然とおでこに向かって伸びて来る手を、はっと慌てて、自分の手で妨害。
マークが私の目をじっと見てから、
何も言わずもう片方の手で私の手を払いのけて。おでこに冷たい指がのった感覚がする。
「下がったね」
ほっと小さく息を吐いてる。
「…マーク、なんか痩せた？」
頬がこけたような。
「多分、最近あんまり食べてないから」
「どうして？病気？」
「可哀想にAが喉を傷めて、食事もできないのに、人ごとにして好きなだけ食べるなんてできない」
マークはそう小さく首を横に振る。
私は思わず口が開いたまま。
今朝も昨日も病院食をたらふく食べた。気まずい。
「Aも少し痩せた気がする」
「…気のせいだよ」
本当に気のせいだ。
「気落ちするに決まってるのに、軽はずみなこと言ってごめん。早く謝りたかったけど、タイミングがなくて」
それからマークはそう言った。
やっぱり、勘違いしてるし分かってない。
まあ私にも罪悪感があって、いいよ別に、って返した。
「もう退院できたし。マークもちゃんと食べなきゃだめだよ。私の事は構わなくていいから」
「でも心配してる」
「私今までマークに甘えてたけど、最近よく思うの。幼馴染だからって特別優しくしないで。私は…マークが窮屈な思いをしてるんじゃないかと」
うわべの言葉だけで飾り立てたら、
目を見開いた君が見せる、落胆の表情が心に刺さる。
「何言い出すのA」
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作者名：ユン | 作成日時：2023年3月11日 21時
