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昔はもっと温厚だった。付き合い始めた頃は。
SNSのパスワード教えろとか、交友関係にまで口を出して、
睨むような目で監視されるようになったのは、いつからだろう。
「元々私のことなんか、好きじゃなかったんじゃ？」
チャットの連絡には5分以内に返信しないと、着信が鳴りやまない。
位置情報を見られている。無断で出かければ、浮気じゃない証拠を見せるまで詰められる。
立ち止まったヘチャンの背中。
「浮気」の定義だって。
「変だよ、クラスメイトと口をきくだけで怒鳴られるなんて…」
「は？」
振り返るヘチャン。
もちろんこう言うと決めるのもすごく躊躇した。
でもいつか言おうと決めていた。
「怒鳴った？俺がいつ」
「怒鳴ってるもん…ばか、あほ、今日は劣等生って」
「何言いたいんだよ、お前」
歩み寄るヘチャン。思わず後ずさり。
「ヘチャンが保ちたいのは自分の名声でしょ？」
「A」
「劣等生の面倒を見てる、優しくて完璧な」
その時ヘチャンが、
手のひらで私の首の後ろを掴んだ。
至近距離の、光のない両目。
小さく開いた唇。
つめたい指先の温度が、首元に伝わる。
始めは、中学生の時、
誰もいない職員室でヘチャンが1人、
テストの模範解答を盗み見ていたところを、目撃してしまってから。
完璧な優等生の大きすぎる秘密。
私を監視しているのも、その秘密を守りたいから？
唇に触れそうになる唇。
直前で、ヘチャンの肩を思い切り押しのけた。
「殴りたいなら殴ればいいよ」
息を吸い込んで、そう言った。
「カンニングの秘密は守るから。誰にも言わない。誰かに言ったら死ぬって、契約書を書いてもいい」
前髪の間で揺れる瞳。
「そんなに束縛されてるなら、別れ話をした暁には殺されるんじゃ？」って、ネットの質問箱で言われたことがある。
「お前俺の事好きじゃないの？」
ヘチャンが呟く。
「楽しくない」
そう、首を横に振った。
「人の、見栄のために付き合ってるのは…」
自分でこう言うのだって、つらいんだけど。
毎回散々詰った後に、降り注ぐような甘い味のキスも、
今はつらい。
ヘチャンは黙ったまま私に背を向けると、
私に横顔を見せて、
「絶対別れないから」
そう言った。
「謝って来ても許さない」とも、言って。
鬼は1人ですたすた帰って行く。
こわばっていた肩の力は抜けないまま、
その背中を見送って、唾を飲み込んだら、
「危ない！」
誰かの声が聞こえた途端、
後頭部に今まで感じたことのないような鈍痛が走って、
視界が真っ白になった直後、意識が途絶えた。
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作者名：ユン | 作成日時：2023年3月11日 21時
