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補習は3時間かかった。
もう薄暗くなった空。人気のない教室前の廊下。
教室を覗いてもヘチャンの姿は無くて、
辺りを見渡しながら恐る恐る昇降口に出た。
靴を履いて早歩き。
まんまと逃げおおせた、
「おい」
と、思った。
魔女に睨まれたみたいに、体全身がぴしっと固まる。
声の方を振り返った。
ヘチャンが満面の笑みで、昇降口そばのベンチから、こっちを見ている。
「…ヘチャナ」
「いくらなんでも遅すぎるだろ。逃げたかと思ったわ」
あー、劣等生って困るなマジ、
って言いながら、立ち上がって、鞄を肩に背負う。
「待ってたんだね、帰ったのかと…」
「逃げてるみたいにキョロキョロしてたけど。どこ行こうとしてた？」
「…もちろん、ヘチャニを探しに」
ずっと見られてた。心臓が素早く鳴り始める。
ヘチャンが歩き出す。その斜め後ろをついて行ったら、
ヘチャンが振り返って、何も言わず私の手首を掴むと、無理やり引いた。
ヘチャンの隣を歩く。手が離れる。
「3時間ずっと補習？」
ヘチャンは私を見ない。
「うん」
「内容は？」
「内容？」
「3時間ちゃんと補習室に居たって説明しろよ」
補習は寝てた。けど。
「居たよ…補習室」
「前補習って言いながら男と会ってた」
「あれは、事務連絡だよ、仲良くないし」
「連絡先消したよね？」
ヘチャンの両目がこっちを見る。
脇のグラウンドで練習している野球部の掛け声が、ぼんやり聞こえた。
周りの景色をすごく遠くに感じる。
「うん」
「最初から、話しかけるなって、言えよ。劣等生でもそれ位できるだろ」
ため息混じり。
「うん」
俯いた。
自分の手首を見下ろす。へチャンが私の腕を掴むときは、いつも痛い。
学校の優等生を脅してるんだろって、生徒指導の先生にすら言われたことがある。
言うなら、逆だ。
私はへチャンに逆らえない。
彼の、明るくない、優しくない、冷たい顔を知っている。
「ごめん」
「俺が説教してるみたいにしないで」
「うん」
「後3年の間でお前が二股してるって噂あるんだけど何？火の無い所にも噂って立つ？」
にこにこしてる。
昔はかわいいと思ってたこの笑顔も、今の私の目に映ると、背筋が凍るように冷たくなる。
「ヘチャンの寛大さを誇張する噂だよ、それに、SNSもヘチャンが監視してるのに、私にそんな器用なことできるわけないでしょ」
まあそれもそっか、って言ってる。
「浮気なんてしないもんね、おまえ。別れるとか、もっと無いよね？」
笑ってるようで、笑っていない。
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作者名：ユン | 作成日時：2023年3月11日 21時
