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「はいはい」
「…」
「そうだよ。なに。未練あるけど。悪い？」
なんか開き直ってるドヨンさん。
「別れは自分から切り出したくせに」
「…」
「自分から言って、勝手に、出て行った」
「引き止めなかった」
そう、私を見てる。
「ごめん」
それだけ言った。キムドヨンは呆れ顔。
「…ごめんって…」
「あなたはどんな時も私より考えてるから。あなたに別れようって言われる時、私に抵抗する権利なんて無いと思ってた」
「…何それ」
ごく小さな声。
「大学生の時、ゼミから帰る途中、大学から2駅隣の定食屋でたまたま会って、私、あなたに告白したでしょ」
もし今あなたに好きな人がいなかったら、私と付き合ってって。
言ったら、少し目を伏せて、それ矛盾してるよね、って呟いてた。
「…それが何」
「いいよって言ってくれた時が、私の人生で一番幸せな瞬間だった」
嘘じゃないよ、って、付け足す。
少し沈黙が過ぎて、電柱の近くでキムドヨンは、足を止めた。
鞄から何かを探って、私に差し出す。
丸い棒付き飴。私の好きな。
「…くれるの？」
「俺8時以降は食べないから」
「へえ」
「もう夜中1人で出歩かないで」
「ドヨンイが一緒に来てくれれば出歩けるんじゃない？」
「…やだ」
「なんで」
「やだ…絶対やだ」
首を横に振ってる。
「ドヨンア」
「もう信じない」
「信じてよ。明日から靴下洗濯機に入れるよ」
「嘘だよ」
「嘘でも、ぷんぷん怒りながら、しょうがないなあって言ってくれるでしょ」
私から向きを逸らす目元が赤くなる。
「ごめん」
「…」
「私の家を飛び出した後、泣いたりした？」
綺麗な瞳から、雫がぽろり。
手の甲でさっと拭ってる。
「…泣くでしょ…」
「そっか」
「死ぬほど…もう…」
不思議なことに、私の中のドヨンとの思い出には、楽しいものしかない。
風邪の看病に行ったら、風邪薬と間違えて酔い止めを買ってきていて、ドヨンを大笑いさせたこととか、
散々怒らせた後、将来子供が出来たら一緒に行きたい場所とか、通わせたい習い事とか、話し合ったこととか。
A、ってドヨンが私の名前を呼んで、
そっと抱き寄せた。
「ごめん」
涙で震えた声がする。
「勝手に出て行って」
「いいよ」
「うちでラーメン食べよう」
頬に伝わる、あたたかい振動の音。
「じゃあお酒買いに戻らなきゃ」
バカ、ってドヨンが優しく笑う。
帰り道に聞いたけど、私が昔皆に暴露したドヨンの黒歴史っていうのは、中学の時ストリートラップバトルに興じていたことらしい。
確かに、言わないであげればよかった。これだけは。
＊
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作者名：ユン | 作成日時：2023年3月11日 21時
