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「A」
実は、時はあれから10年近く経っている。
彼は今仕事用のジャケットを羽織って、駅前に立つ私に向かってぴょんぴょん駆けて来る。
「ごめん、作業長引いて」
「待ってないよ。お仕事お疲れ様」
「遠くから見えたけど、スマホ見ながらにやにやしてたでしょ。ちびの写真でも見てた？」
オンマから送られてきたんでしょ、俺にも送ってよう、って不満そう。
テヨンは私の隣で一緒に歩き出す。向かう先は駅前のレストラン。
「違うよ、高校時代の友達から連絡来て、ちょっと昔話。色々思い出してたの」
「高校時代の思い出？っていうことは俺の思い出？」
「半分は悠太くんの思い出」
ああ！って声を上げてる。
「10年たってもAの記憶に巣くってるなんて、手ごわいなユタは」
俺は昨日も連絡とったけどねん、って軽い自慢してくる。
「テヨンア、当ててもいい？2年の秋からもう私の事好きだったでしょ」
「そんな話昔もしなかった？」
「私より絶対早かったと思うもん。どうなの」
私の顔を見て、ちょっとだけ目を細めるテヨン。
「どっちが遅いか重要？」
「だって冷静に考えてさ。テヨンがだよ？」
「俺がなんなの」
「幼稚園からモテっぱなしのテヨンが、片思い経験してるって。それもクラスで一番地味な女に」
思わず腕を組んで、すごいよねえ、ってしみじみ。
はーあ、ってわざとらしい溜息つくテヨン。
「その言い方、2年の秋時点では俺の事まったく眼中になかったって感じだね」
「お！て言うことは当たりでしょ」
「ちがいまーす。それもAはべつに地味じゃなかったよ」
そう軽くフォローして、ふふん、て満足げ。
「付き合う時にも話した気がするけどさ、なんで私なの？」
「俺にあんまり興味ないAが珍しく質問攻めだ」
興味がないつもりは。
「Aは正直、ユタが何かの拍子でAのこと好きになってたら、ユタのとこ行ってたでしょ」
今だから言えるけどねってぼそぼそ言ってる。
「まさか。FC会員に不純な気持ちはないもん」
「3年間でユタとAが口きいたのは数えるほどしかないでしょ、それなのに思い出の半分はユタ？」
「揚げ足を取らないで」
「俺半分だけ！一応彼氏になったのに」
うーん。
「だって何があっても悠太くんが私の事好きになるはずないもん」
「ゼロ点の返答だよ、Aちゃん」
拗ねてるらしい。高校の時みたいな意地悪にまんまと苦しむ。
「ま、この話はあとにしよう。ごはんごはん！」
お店が見えてきた。テヨンが笑いながら、ごはんごはん！って復唱する。
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作者名：ユン | 作成日時：2023年3月11日 21時
