☆21ｰ夜明け ページ26
刑事さん達とスーツケースを処分した日、
その夕方、テンと一緒にバス停まで向かった。
夕方と言っても、もうずいぶん暗い。
夕日は沈みきろうとしている。
住宅街からもずっと離れた人気のない土地。周囲は畑が広がっていた。
ここから空港に向かうバスが出る。ジェヒョンはそこに1人で立っていた。
肩からかばんを提げて。
「『証拠品』は？」
遠くからのろのろやってくるバスを見ながら、ジェヒョンは呟いた。
「処分できたよ」
「そう、良かったね」
「腕の怪我は平気？」
「たまにずきずき痛い」
ジェヒョンが撃たれたのは右腕の肩近く。
それまであった頭や腕の怪我は良くなってるみたいだった。
「またいつか韓国に帰ってくる？」
尋ねた。
バスが目の前で停まった。プシューって音が物静かな農地に響く。
見たら他に乗客がいない。
「全然、帰ってきたくない」
ジェヒョンはそう言ってへらっと笑った。
「もう一生見る機会ないと思うけど、社長の家の変態集会の記憶も忘れたいし、刑事たちにも会いたくない」
「お父さんとお母さんは、もう向こうなの？」
「うん、午前の便で」
ジェヒョンはバスの乗車口を1段上る。
「ジェヒョン」
テンが呼んだ。
「お前、あの時本気で、殺すつもりだった？」
振り返るジェヒョンの顔。
「あの時？」
「俺をビデオカメラの取引に呼んだ時。スカイを殺すと言ってた」
「どう思う？」
ジェヒョンが笑ってない。
「お前は…」
テンもじっとジェヒョンを見てる。
「お前は、殺さない」
2人の視線が繋がる。
「お前はもしかしたら、救いたかったんじゃないかと思った。
スカイを。
あんな、救いようのない、最低のクズ野郎。
でもお前は…」
スカイの悪事に正面から向き合う時。そのどうしようもない動機、人間性、意図にぶつかる時。
必ず見えてくるのは父親の狂気。
迫られて、逃げてきて、抗おうとしたのは、私達と一緒だったのかもしれない。
「…そう、一瞬思ったけど、やっぱやめた」
テンはさっと目を逸らした。
「そんなわけないだろうし。それにもしそうだったら、お前みたいな奴が」
「そうだったら、何」
「なんかキモい。ムカつく」
ひどくね？ってにこっとしてるジェヒョン。
私達はジェヒョンがスカイをどんな目で見上げていたか知らない。
「金輪際あんな奴に捕まるなよ」
テンがため息交じりに言った。
「あんな奴？テンみたいな奴？」
「俺お前には一生会いたくない。一生帰って来るな」
「奇遇だ、俺もあんたには一生会いたくない。マジで怖い」
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作者名：ユン | 作成日時：2023年12月6日 14時
