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「せっかくだし、飯でも食べてく?」
「へっ…?」
結局、車で来ていた山田に家まで送ってもらうことになり高鳴る胸を抑えて助手席に乗り込めば突然のお誘いに思わず変な声が出てしまう。
だけど今はこの汚い体を一刻も早くどうにかしたくてどうしようか悩んでいると"無理ならいいよ"と言われてしまい、ますます申し訳なくなる。
「ごめん。明日の集合いつもよりも早くて、」
「あ〜、それなら早く帰って寝たほうがいいね。大ちゃん絶対寝坊するし」
「しねぇわ!!」
明日早いのは本当だし、断っちゃったけど特に怪しまれてはいないはずだ。
もう一度"ごめんね"と言って山田の顔を覗き込み、また誘ってくれる?と聞けば"当たり前じゃん"と返されほっとする。
「そういえばあのADと何話してたの?」
「特になんも。楽屋戻る途中で原因不明の腹痛に襲われてそれどころじゃなかったし」
「え、大丈夫?」
実は襲われてました、なんて言えるはずがなくて、毎度お決まりになってしまった"言い訳"を口にすれば本気で心配され、勘違いしそうになる。
山田がこうして心配してくれるのは俺がメンバーだからなのに俺にもまだチャンスがあるのではないかと。
「もう平気!山田もたまにあるでしょ」
「めっちゃある」
むしろあるあるだわ、と真顔で頷いた山田に自然と口元が緩み出すのがわかる。
そのまま堪えきれず声を出して笑っていると無言で肩を叩かれ隣を見れば少しだけ耳が赤くなっていることに気が付いた。
「そろそろ着くよ」
「あ、ホントだ。此処でいいよ」
「此処まで来たらもう変わんないから」
車窓越しに外を覗き込めばすでに見慣れた通りを走っていて、此処で降りて歩いても5分かかるかかからないかの距離にまで来ていた。
大通りで降りると言ったのにも関わらず車が停まったのは俺のマンションの目の前で、こういうところがやっぱり好きなんだよなぁと改めて思う。
「今日はありがとう。お疲れ様」
「どういたしまして。早く寝ろよ」
「おうよ」
じゃあまた、と車から降りて一度も振り返ることなく早足で自分の部屋へと向かう。
マンションの前で車が見えなくなるまで見送る、なんて女みたいなことはこの滲んだ視界では出来そうにない。
「…っ、ぅ…うう…っ…」
力任せに玄関の扉を閉めればもう限界で、頬を伝う涙に理由なんてないはずなのに止めることが出来なかった。
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やぶありLOVE(プロフ) - 更新お願いします! (2019年7月5日 5時) (レス) id: a774dd9b98 (このIDを非表示/違反報告)
柚夢(プロフ) - ありさん» ありさん、はじめまして!コメントありがとうございます。お返事遅くなってしまい、申し訳ありません^^;訳あって暫く更新が停滞しておりましたが、これからまた少しずつ更新していけるかと思うので最後まで楽しみにしていただけると嬉しいです! (2018年9月4日 23時) (レス) id: e7612f0310 (このIDを非表示/違反報告)
あり(プロフ) - いつも楽しく拝見させて頂いてます!これからの展開がとても楽しみです!更新頑張ってください´ω` (2018年8月16日 12時) (レス) id: 9b6fba23c4 (このIDを非表示/違反報告)
柚夢(プロフ) - やまありラブラブさん» やまありラブラブさん、こちらにもコメントありがとうございますー!!最後はちゃんとやまありになるのでご安心下さい(笑)今後も完結まで楽しんでいただければ幸いです(^_^) (2018年5月21日 20時) (レス) id: e7612f0310 (このIDを非表示/違反報告)
やまありラブラブ(プロフ) - ホシアイの方でコメントさせていただいた者です。こちらも、切なくなりながら、拝見させていただいてます。これからが、今後の展開が、とても気になっています。楽しみにしているので、頑張って下さい。 (2018年5月21日 15時) (レス) id: 556ce3724e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柚夢 | 作成日時:2018年5月6日 23時