君に恋した金曜日 ym×ar

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｢着いたよ｣

｢ん、ありがと｣



スタジオの駐車場に停められていた山田の愛車に乗り込み、着いた先はあまり来たことのない方面にあるこじんまりとした居酒屋だった。
なんとなくここら辺はオシャレな飲み屋が多いイメージがあるけれど、こういうお店もあるんだなぁとキョロキョロしながら店の中に入れば温かみのある内装になんだかほっとした。



｢いらっしゃいませ｣

｢こんばんは。一番奥空いてますか？｣

｢少々お待ちください｣



店先で出迎えてくれた店員さんに軽く会釈をして慣れたように奥の部屋を指さす姿に感心しているとすぐにその個室に通される。
この部屋が1番好きなんだ、と笑いながら教えてくれた山田は店員さんにお酒ではなくコーラを頼んでいて、ちょっと面白いのは内緒だ。
大ちゃんは？と言われ、オレンジジュースを頼むと意外そうな顔をされた。



｢飲んでいいのに｣

｢明日も朝から仕事なんだわ、これが｣

｢そうだっけ？｣



明日は伊野ちゃんとバラエティー番組のロケが朝からあるから飲む訳には行かない。
テーブルの上に置かれたグラスで乾杯して、他愛ない話をしながら山田が適当に頼んでくれた料理を食べているとふいにじっとこちらを見つめている山田の視線に気が付いた。




なんか今日こんなんばっかだな。





｢なんだよ｣

｢……大ちゃんさぁ、最近何かあったでしょ｣




言いたいことがあるなら言えよ、と仕方なく顔を上げ山田の顔を覗き込めば躊躇いがちに口を開かれ、何も言えなくなってしまう。
確かに何もなかった訳ではないけれど、それは山田には関係の無いことだ。
全て終わったことだし、今更誰かに言ったところで"今"は何も変わらないのだから。



｢別になんもないけど｣

｢ホントに？｣

｢ないってば。逆に山田はどうなんだよ｣



俺よりお前の方が色々ありそうじゃん、と無理矢理口角を上げればため息をつきながら"何もない"と言われてしまい、どうすることも出来なくなる。
果たしてこの微妙な空気のまま止まってしまった会話をどうやって始めればいいのだろう。



｢………もういいよ。言いたくなったら言って。いつでも聞くから｣

｢……ありがと、｣



恐らく納得はしていないだろうし、これが作り笑いだということもバレているに違いない。
それでも何も言わずにいてくれる優しさにこの言葉しか出てこなかった。

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