月虹 ym×ar (ページ4)

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｢あ、そうだ。名前教えてよ。俺は山田涼介｣

｢えっ……？｣

そういえばまだ聞いていなかったなぁ、と空になったマグカップを目の前にあるテーブルに置いてから口を開くと何故か驚いたような顔をされ、思わず首を傾げてしまう。
何かおかしな事を言っただろうかと彼の瞳を覗き込めば"ごめん、ごめん"と苦笑いされた。

｢あんまり聞かれないからさ。有岡大貴。これが俺の名前。山田の好きなように呼んで｣

｢あっ、うん｣

その言葉を聞いて納得する。
今宵限りの相手の名前なんてきっとお互いどうでもよくて、重要なのはもっと違うモノだ。

｢大ちゃん｣

｢え…？｣

｢有岡さんだと可愛くないから大ちゃんって呼ぶ｣

｢なんだそれ｣

だけどなんとなくそれでは勿体ない気がして、ふと思いついた愛称で呼んでみると初めて有岡さんが俺を見て微笑んだ。
不意打ちのその表情に思わず見惚れてしまいそうになるのをなんとか堪え、深くは探り過ぎないように気を付けながら他愛もない話をしているとちらっと時計を見た大ちゃんが困ったように眉を下げる。
どうやら話に夢中になっていたようで気付けば1時間以上経っていた。

｢ねぇ。このままだとお喋りだけで終わっちゃうけどホントにいいの？｣

｢俺はそれでいいの。心配しなくてもお金はちゃんと払うから安心して。ね？｣

｢でも……、｣

俺、何もしてない……。

小さな声でそう呟いた大ちゃんは何を思ったのか突然俺の膝に跨り、ズボンの上から俺のそれを優しく撫で始めた。

｢ちょ、ダメだって……っ！大ちゃん！！！｣

｢……なんで、｣

いつの間にかズボンのファスナーへと手を伸ばしていた大ちゃんの腕を慌てて掴み止めさせれば水分をたっぷり含んだ大きな瞳が切なそうにこちらを見上げている。
だけど、これ以上はダメだ。
この一線だけは超えられないし、超えさせない。

｢ごめんね。だけど俺、大ちゃんの"身体"には興味がないんだ。そもそもノーマルだし｣

｢……っ、｣

｢だから、さ。俺に”大ちゃん”を買わせて？そんなことしなくてもこの家に居てくれるだけでいいから｣

大ちゃんをこの家に連れてきたのはただの気まぐれで、あまりにも自分とかけ離れている姿に同情したからに違いない。
だけど俺の事を何も知らない大ちゃんから向けられる感情は全て本物で、この人の前でなら俺は"俺"のままでいられると思ったのだ。