梅干し味 ページ21
『……』
周囲からひそひそと話し声が聞こえる。
内容までは聞こえないそれは、しかし私に関するものなのだと視線でわかる。
…限界か。
私はスマホを取り出して、LIMEを開いた。
登校が週1になり、この妙な異変が落ち着けばと期待したが、駄目だな。1週間ぶりの学校は、やはりおかしかった。私に対してのみ。
万里はおろか咲也くんや真澄くんまで、今朝の登校時の様子で気づいたっぽいし。
私が様子見してるからか、3人も何も言わずにいてくれてるけど。
だが少しずつひどくなるのを感じていると、このままではいけないとも思う。
『(いい加減、動き始めてみようかね)』
遠巻きにされている私を気遣ってか、最近は万里が大体私の近くにいてくれる。
今はコーヒーが飲みたいと自販機に行っているが。
さて、動き始めてみるとは言ったものの、正直情報が足りない。
そのうち万里達にも相談してみるつもりだが、その前に情報収集しておかないとね。
こういうのは得てして、女友達のほうが情報通だ。
『(花学の生徒に、ある程度関係の深い女友達がいたのは僥倖だったな)』
聞きたいことがあるから会えないかと送ったトーク画面は、すぐ既読が着いた。
続けて返事が送られてくる。
"5限目、保健室"
返事になっているような、なっていないような。思わず笑いそうになる。
了解、とだけ送り返してスマホを閉じた。
情報は全くない訳ではない。
単語が2つ、ひそひそ声の中から時折聞こえてくるのだ。
"裏切り者"
"期待外れ"
なんのこっちゃ、である。
『(まぁ彼女に聞けば何かしら分かるだろう。あの子、地獄耳だし…あ、万里戻ってきた)』
周囲を気に留めず、彼は私の前の椅子に座る。
先日の席替えで、私達は前後の席になったのだ。
「ほれ」
『お?』
「新商品」
自分の缶コーヒーを開けながら、彼が私に渡してきた紙パックには[飲むヨーグルト 梅干し味]と書かれていた。
『…飲んだことあんの?』
「ねーけど?」
『美味しそうだなと?』
「いや?むしろまずそう」
『…』
ストローを突き刺し、一口飲んで、後悔した。
『ギョエ』
「うわブッサイク」
『おうてめーも飲めやコラ』
「やめろよ、俺の味覚は繊細なんだぞ。まずいもん口にしたくねえ」
『お前いい加減にしろよ?』
…気にすんな、って。
そう言いたいんだろうな。
自分では平気なつもりだったけど、万里には何か伝わったのだろうか。
何にせよ。
『(ありがと、万里)』
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わず - すごく面白いです!更新楽しみにしてます! (2019年9月10日 14時) (レス) id: 1511d926d3 (このIDを非表示/違反報告)
rena(プロフ) - 更新待ってます (2018年8月30日 2時) (レス) id: 8104f6caff (このIDを非表示/違反報告)
さーや(プロフ) - すごく面白くていつも楽しみにしています!更新応援してます! (2017年9月6日 8時) (レス) id: a8b7ed9872 (このIDを非表示/違反報告)
おにぎり。 - とてもとても面白くて、何回もみています!ゆっくりことこととお待ちしております。 (2017年8月5日 19時) (レス) id: 392125dbe2 (このIDを非表示/違反報告)
ことみ(プロフ) - 最高でした♪ 続き、楽しみにしてます! (2017年7月4日 23時) (レス) id: c79b5cac48 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:群青 | 作成日時:2017年6月14日 9時