【短編集】刀よ、何を斬るか (ページ5)

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恋情と愛情【堀川国広】ページ5

私はどうも、審神者というものに向いていないらしい。それを知ったのは、少し前の演練でのことだった。

何振りかが中傷判定になったものの、何とかＢ勝利をもぎ取った演練。もう名前も忘れてしなった相手の審神者が、私に話しかけてきた。しかし生憎口下手な私は上手く会話が出来ず、そんな様子を見た相手は「そんな様子ではこの先何振りも増える刀剣達とやっていけるかわからない」と呆れていた。まあ、ごもっともである。

私が今までやってこれたのは、この本丸が祖父からの引継ぎだったからということだ。後継として私を育てた祖父は何年か前に定年退職、事実上の隠居をした。今はもう本丸に来ることはなく、穏やかに余生を過ごしている。そんな祖父だからこそ刀剣男士達に慕われ、私はその実績に縋ってなんとかやっている。

机に向かい「馬鹿でもわかる審神者能力上昇法」という本を読んでいるがイマイチピンとこない。やはり実践あるのみなのか。しかし相手は付喪神とはいえ神だ。失敗したら物理的に首が飛ぶ可能性だってある。

「主さん、本を読むときは電気をつけないとダメですよ」

「…堀川……」

「前から思っていたんですけど、主さんの私室って文机の向きが反対ですよね？壁じゃなくて真ん中の方を向くように置いたら、必然的に灯りの下になると思うんだけど…」

「壁に向かっている方が…落ち着く…」

「まあ分からなくもないですけど…なら余計に有効活用しましょうね」

堀川国広はそう言って電気スタンドの灯りを点けた。

彼はこの本丸でも古参の刀、らしい。本丸設立時に立ち会った一振りらしく、初期刀の陸奥守とはよく話している姿を見かける。私は彼の極の姿しか知らないが、以前はもっと和泉守兼定の世話を焼いていたらしい。極めてから何十年も顕現していれば流石に落ち着くのか、最近は和泉守兼定のひっ付き虫をしているのを見かけたことがない。勿論、戦闘等では阿吽の呼吸のコンビネーションを発揮するが。

「堀川は…お母さんみたい」

「こんなに生活能力の低い子供産んだ覚えないです」

「辛辣…」

「事実です。でも僕、主さんのそういうところも好きですよ」

「ふうん…」

「お世話のし甲斐があるからね」

ニコニコと笑みを浮かべ、堀川は私の手をとった。子を見つめる親というよりも、別の意味で何か愛おしいものを見るような目線だ。

「できればもうちょっと、お傍でお世話したいんだけど…」