51話 逃げる ページ9
「胡珀〜?何逃げようとしてるん?」
がし、お腹に手を回されて引き寄せられる。
気づけば私は千羅さんの腕の中だった。
「まーしぃとキスしたんか〜」
「イヤ、ソンナコトハナイデス…」
「いつからそんな関係やったん胡珀?」
「何もないですよ!」
耳元で千羅さんに質問攻めをされる。
それがくすぐったくて逃げ出そうとするが千羅さんと私では力の差は歴然。
唸りつつもがいていると、目の前にいた志麻くんが声を上げた。
「あぁ、あの時か…。
言っておくけど、あれ胡珀からしたんやからな?」
その一言で、その場の空気が一気に私の中で重くなった。…これは、まずい。
栄香が立ち上がり、スタスタとどこかに歩いていく。
「あーあわたし知らない!」
栄香お願いだから居なくならないで!
長い付き合いでしょ、助けてよ…!
と心の中で懇願するも栄香は部屋に戻って行った。
わーん!無慈悲!
あの後、質問攻めをなんとか掻い潜り逃げ出すことが出来た。ふとベランダを見ると志麻くんが1人で佇んでいるのを見つけて近くに寄る。
すると志麻くんは小さい声で、そっと呟いた。
「…やくそく…か」
虫の羽音くらい、とても小さな声で、聞き取れたのは奇跡だとも感じたんだ。
「胡珀。」
「なに?」
呼ばれて、志麻くんを見る。
志麻くんの方が背が高くて、私は彼を少し見上げる形になってしまう。改めて見た彼の菫色の瞳に引き込まれてそうになって、私は目を少し逸らした。
「逸らすな」
急に、私の今した行動を否定したものだから驚いて目を合わせる。
「約束は俺は子供の頃のことでも守るからな。」
すると志麻くんは私の手を掴み引き寄せ、頬に手を添えた。
志麻くんが急に近くなって反射的に目を瞑る。
ふに、唇に感触を感じた。
それは幼い頃に一回だけ初めて味わった感覚にものすごく似ていて___
いま、私、なにされた?
き、きす?キス?まさか。そんなはず…
目を開けると異常なほどに近い志麻くんの顔が見えて心臓がどくんと波打った。
顔に熱が集まり、急に恥ずかしくなって、手で顔を隠す。
「っあ…」
長いようにも短いようにも感じられたそのセカンドキスは、不意打ちすぎて。私には少し刺激が強すぎて。
私は頭を志麻くんに撫でられた後その背中を見送ってから、その場にへなへなと座り込んだ。
それは坂田さんが大丈夫?と声を掛けるまで続いた。
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ちょこ2(パソコン変わりました≪元ID 5ad0b4ef6a≫)) - この作品好きです!ゆっくりでいいので、御自身のスピードでいいので続き楽しみに待ってます! (12月7日 13時) (レス) @page12 id: c7ac99c812 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朧月 天音 | 作成日時:2021年4月27日 0時