弟切草を貴方達に。 (ページ9)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:3,371 hit

7話　＿＿＿＿side ページ9

「さて、ゲームの時間だ。行こうか」

「…はい」

代わり映えのない今日。今も一人、忘れられず生きているのは何処かで悲しくて。

人と関わるのは得意じゃない、生きている人間は何を考えているか分からない…けれど、今も。それを知った上で僕に手を差し出してくれたあの人を想っては、その思いに耽ける事がある。

あの人は、この世界に何処に居るのだろうか。あの頃に比べ理不尽の減った、あの人の生きやすいであろうこの世界の…一体何処に。

「…けれど、僕は、生き辛い」

「？何か言ったかい？」

「…いえ」

あの頃から変わらない。あの頃も生き辛くて、苦しくて、当たり散らかした事さえ、あった。

けれどその度あの人は、空気が読めないふりをして…その感情を、掻き乱してくれた。

掻き乱されている、筈なのに。心地好くて、泣きたくなった。

「…あの」

「うん？」

「…あの人は、見つかりませんか？」

この人はあの人を探してくれると言った。だから今も僕は何処にも飛び出ず、あの人を探しに行かない。

この世界に居る事は随分前に知った。だから今直ぐにでも探しに行きたいが、ただ飛び出しても良くないとこの人に諭されたから今も此処に残っているのだ。

「…まだだよ」

一瞬の、沈黙。

それだけで、分かった。

「…見つかったんですか？」

「…もう少し、待とう」

見つかったと言うのに、何故行かせてくれないのか。それだけの理由がある？あの人は僕達を覚えていない？

…どうでも良い。覚えていなくても、寄り添う事が大切だ。だってあの人は、あの人にとって…良い世界なんて、今までに一度だってありはしなかったのだから。

「………なんで…」

空を見上げた。今日は何だか、腹が立つ程の晴天で。夜になった今では、星が綺麗に光っている。

…あの人は、星も…花も、大好きだった。

その時、だった。

“…たすけて、フェニック”

切羽詰まった声で、その名を呼ぶ人なんて…一人しか、浮かぶ筈がなくて。

「すみませんイライさん、僕少し行かないといけなくなって」

「…急いで、助けてあげて」

まるで分かっている様に言った彼に、頷いて走り出した。

少しでも遅れてしまえば、きっと…

「…もう、失わない」

.

.

「…私には無理だ、…君にしか救えないよ、イソップ…」

＊